このまま二人で
「ただいま」
「おかえりなさい。もうすぐご飯ができるよ」
帰ってきた僕の声に彼女はキッチンからひょこっと顔を覗かせた。
あの夜、彼女を秘密結社に引き込もうとしたが、彼女は首を縦に振らなかった。自分の正義の心が許さないと。
無理やり連れて行くことも考えた。けれど、後々のことを考えるのがいろいろ面倒になった僕は、それなら二人で逃げてしまおうと二人して雲隠れすることにした。
ここは郊外の住宅街の一角にあるごく普通の一戸建てだ。前に住んでいたところからとんでもなく離れているわけではない。
僕は日頃から社の捜索網に引っ掛からない場所を故意に作っていた。それはシステムの統括を行う最高幹部という職務柄そう難しいことではなかった。ここはその「穴」の一つだ。
「今日は家庭菜園でできたミニトマトを使ってパスタを作ってみたの」
ここに来てから彼女はよく笑うようになった。魔法少女として敵と戦う日々は緊張の連続だったのだろう。そんな様子を見るとやっぱり全てを投げ出して逃げてきたのは正解だったと思う。
僕はぬるま湯のような日々にどっぷりと浸っていた。
***
休日の昼下がり、僕はソファーで寝転がって本を読んでいた。彼女は近所の店まで買い物へ出掛けている。着いて行こうかと提案したが、一人で大丈夫だと出掛けていった。
けれど、もう帰ってきてよい頃合いだ。
僕は何か急に胸騒ぎがして様子を見に行くことにした。
店までの道を辿る。その途中の公園にさしかかったとき、木々の奥で何かが爆ぜる音がした。僕は直感的に音がした方へ走る。
そこにいたのはあちこち擦り傷を作った恋人と見覚えのある顔。
「
「あら、見つかっちゃったわね。貴方が来る前にトドメを刺したかったのに」
「雪!」
彼女の方へ行こうとするが、足元に火花が散り阻止される。
「動いたら彼女が死ぬわよ」
僕は動きを止める。
「貴方がこんな小娘のために地位も名誉も捨てるなんて間違ってる。貴方は新しい世界に必要なのよ。戻ってきて」
「何が正解なのかは僕が決める。僕は帰らない。もう放っておいてくれ」
「そんな訳にはいかないわ! あなたには私の方が相応しいもの」
「それを決めるのも僕だ。君は僕には必要ない」
きっぱりと言い切ると、
「この小娘をやっておしまい!」
遠くの木立からがキラッと光った。しまった。刺客か。僕は反射的に彼女の方へが走った。
ドスッ
僕の胸を熱いものが貫いた。強烈な痛みで意識が朦朧とする。
「夜月さん!」
彼女の悲壮な声がする。
「ゆ……き……」
僕の意識は闇に沈んだ。
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