止まらない恋心

 ある春の日。僕は情報管理システムを任されて高校に来ていた。我社のシステムを使って、将来この国と我社に仕えることとなるなる学生たちを管理しようというのがねらいだ。


「氷室さん、海外に住んでたんだ!」

 馴れ馴れしく声を掛けてくるのは、この高校で「お助けクラブ」を作っている女子学生たちだ。なんでも困っている人を助ける活動をしているらしい。馬鹿らしいにも程がある。

 ピンクの髪の能天気そうな子と赤い髪のやたらテンションの高い子と大人しそうだがドーナツを口いっぱい頬張ってる子の三人だ。

 早く出ていってほしいが邪険にする訳にもいかず、作業の合間に適当に相手をしていると、部屋の扉がノックされた。

 心の内は煩いのが増えると辟易しながらもそれを隠して、快く返事をすると、遠慮がちに扉が開き、彼女が顔を出した。


「雪ちゃん?」

夜月ないとさん……」

「あれぇ? 二人とも知り合いだったのぉ?」

 ピンクの髪の少女の言葉は耳に入らず、二人はしばし見つめ合う。

「この間はありがとうございました。友人たちもこの通り無事でした」

 先日言っていた友人たちは彼女たちだったのか。喰われてしまえばよかったのに。そう思ったが、よかったね、と微笑んだ。


「雪ちゃんが言っていた助けてくれた人って氷室さんだったんだ!」

 ピンクの髪の少女は無視されたのも気にせず笑顔で言った。そして、僕と彼女との様子を見て何を思ったのか、「あとは二人でごゆっくり〜」とあと二人を連れて出ていってしまった。


 急に二人にされた彼女は焦る。

「これ、先生に言われた資料です。お邪魔でしょうし私も帰ります」

 資料の束を渡し、部屋を出ようとする彼女を引き留める。

「もし、時間があるようなら手伝ってくれると助かるのだけど」

 彼女は逡巡する様子を見せたが、私で良ければ、と椅子に座った。そして、僕たちは一緒に資料を捲り始めた。


「夜月さんまだ二十歳なんですか!?」

 驚く彼女にいたずらっぽく笑って答える。

「僕はそんなに老けて見える?」

「いえ。だって、もう会社に勤めてらっしゃるから」

 彼女は慌てて首を振った。

「海外の大学をスキップして卒業した後、社長からうちで働かないかと声をかけてもらったんだ」


 そんなことを話しながら時間は過ぎ、すっかり遅くなってしまったので車で送ることになり、彼女は助手席に収まった。


 別れ際に僕はまたらしくないことを言ってしまう。

「次の休日、二人で会えないか?」

「二人で?」

「うん。君のことをもっと知りたい」

 彼女ははにかみながら小さい声で「私も」と言ってくれた。


 こんなに人に興味を持ったのは初めてのことだった。この感情は我社が求める世界には不要だとわかっていた。けれど僕はこの甘い欲望を捨て去ることはできなかった。

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