第3話




 今日もルイーズはひとり公園を訪れた。けれど早く着きすぎたせいか、園内には誰もいなかった。


(もうすこし待ってみようね。すぐにお友だちが来るから)


 胸に抱いていたウサギに言い聞かせる。公園の奥へと進んだルイーズは、自分の膝の上にぬいぐるみを乗せ、ブランコを揺らし始めた。


 今日は朝からずっと、お日さまが顔を出さない。こんな天気だと、誰も公園に遊びに来ないかもしれないな。ルイーズが諦めかけた時、突風が公園の木々を揺らした。舞い散る砂に驚き、少女はまぶたを閉じた。


 突風がおさまるのを待って目を開くと、ルイーズの前に誰かが立っていた。見覚えがある。昨日公園で声をかけてくれた、あの男の子だった。


「ルイーズ、僕の名前は海斗っていうんだ」


 海斗が微笑んだ。ルイーズには言葉の意味がわからなかったが、笑顔から優しさが伝わってきた。


「君のウサギにプレゼントだよ」


 海斗はポケットからひとつかみの袋を取り出した。ルイーズの手のひらにそっと置く。


 少女が袋を逆さにすると、三色の包み紙におおわれたキャンディが、ぽろりと落ちてきた。


 ルイーズの喜びようといったらなかった。少女はさっそくウサギ友達にキャンディを渡して抱きしめた。


Donnez moi le gateauドネ・モワ・レ・ガトー!(私にお菓子をちょうだい!)」


 海斗がつたない発音で母親の言葉を真似た。


「君はそう伝えたかったんだね。まずは公園の子たちに、ウサギと仲良しになってもらいたかった。それから――」


Merciメルスィ! Merciメルスィ!」


 ルイーズは感謝の目で海斗を見た。と同時に海斗の後ろから3人の女の子が歩いてきた。


「昨日はごめんね。私たちからも、ウサギさんにお菓子のプレゼント。受け取って!」


「わたし小さい子に言葉を教えるの上手よ。だから私たちにもあなたの言葉、教えてね」


「これからは一緒に遊ぼうねA ce beau nez!※」


 ルイーズはくすりと笑った。





(どうも、ありがとー     おわり)




※ フランス語で「この可愛い鼻に」の意味

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