第35話 金の子牛崇拝& モーセの執り成し

 「さあ、下りていきなさい。あなたがエジプトから連れ出したあなたの民はしてしまったからだ」32:7

 

 シナイ山で石板二枚を貰ったモーセは耳を疑いました。なぜ神はそんな事を言うのでしょう。神のおきてに喜んで従うって言ってたイスラエル国民。


 モーセは喜んで、その事を神様に伝えたばかりです。契約成立の証に二枚の石板をもらったのに。今からみんなに見せるの楽しみだったよね、モーセ。


 モーセが四十日四十夜いない間に何が起きたのでしょうか? ハナスも気になります。民と一緒にいたお兄ちゃんアロンに聞いてみましょう。


ハナス……「アロンさん、モーセがいない間、何があったんですか?」


アロン……「ハナスさん、聞いてください。弟の帰りが遅いので、みんな不安になったんでしょうね。『さあ、私たちの前を行く神を作ってください。私たちをエジプトから連れ出したあのモーセという者がどうなったか分からないからです』と言われました。山で迷子になっちゃったのかと私も心配しました」


ハナス……「え? モーセの扱い雑ですね。って言い方、兄としてイラッとしませんでしたか? モーセに対する敬意が足りませんよ。まあ、そこは置いといて、で、アロンさん、断ったんでしょうね。偶像作る事、イスラエルの神様禁止してたでしょ? キレられますよ」


アロン……「私も考えたんです。なんて言おうか。水がないだけでもキレちゃう国民です。一人や二人じゃないんです。力のある男たちが何千人もクレーム言ってくる怖さから、つい、妻や子どもたちの金の耳輪を集めるように命令しました」


ハナス……「あー、金で偶像作るって提案すれば、惜しくて出しませんものね。尻にひかれてる夫は妻が怖いですよね。せっかくエジプトからゲットした金の飾りですもの、絶対手放しません。アロンさん、いいアイデアです」


アロン……「そう思うでしょう、ところがみんな、持ってきたんですよ。惜しげもなく金を差し出しました。やっぱりエジプト生活が長かったから、目に見える神が必要だったのかもしれません。で、雄牛の像を作ろうとしたんですけど、なんか気が引けて、子牛にしてみました。子牛なら罪の意識も軽いというか……」


ハナス……「いーけないんだ、いけないんだ。雄牛だろうが、子牛だろうが、偶像ですよ、アロンさんに、良心の呵責ってなかったんですか?」


アロン……「ちょっと、調子に乗りました。だってみんな喜んで『イスラエルよ、これが私たちをエジプトから連れ出した私の神だ」って騒いでたんです。私、実はモーセに少し嫉妬してたのかもしれません。で、祭壇築いてお祭りしちゃったんです。全焼の捧げ物と共食の犠牲を捧げました」


ハナス……「最悪じゃないですか、神様、キレちゃったと思いますよ。モーセに早く山を降りろって命令してますから。全部お見通しです!」


アロン……「ですね、私はもうジジイだったんで、忘れていたんですけど、あの、その、実は、言いにくいんですけど、みんなも調子に乗って、しまいました」


ハナス……「まさか、アレですか? バアル崇拝者がよくするアレを真面目なイスラエル国民がしちゃったんですか? あー、いいな。私も若かったら……」


バシッ。───アロンさん、自分のした事を棚にあげて、ハナスを叩きました。


 キィー。もう私もモーセに言いつけてやる! 「みんな、山の麓で、金の子牛を崇拝して、踊って騒いで、飲んで、騒いで、エッチな事してますよ。性的に戯れちゃってますよ! 私は、逞しい時期指導者、ヨシュアとやり……た……」


バシッ。───モーセにも叩かれました。どーもすいやせん。


モーセ……「ハナスさん、静かにしていてください。今から神に執り成しの祈りをするところなんですから。そこで大人しく座っていて下さい」


ハナス……「すいやせん。そういえば、さっき神様の声が聞こえましたものね。『私はこの民が強情である事が分かった。それで今、私を止めるな! 私は怒りに燃えて彼らを根絶やしにし、代わりにあなたから偉大な国民が生まれるようにしよう!」って。モーセさん、チャンスじゃん。イスラエル国民滅ぼして、アブラハムの子孫の代わりにモーセさんの子孫が繁栄するって事でしょう? そうしてもらえばいいのに。なんなら、私も協力しますよ。チッポラより若いんで」


 モーセさんは、ハナスを無視して執り成しの祈りを始めました。耳ダンボ。


「神よ! あなたは大きな力と力強い手であなたの民をエジプトから連れ出されたのに、なぜその民に対して怒りを燃やされるのでしょうか? どうしてエジプト人が『あの神は悪意があって彼らを連れ出した。山で殺して地上から根絶やしにしたかったのだ』などと言って良いでしょうか? 燃える怒りを静め、考え直して下さい。あなたに仕えたアブラハム、イサク、イスラエルを思い出して下さい。あなたはご自分にかけて彼らに誓われ、『私はあなたたちの子孫を天の星のように多くし、私が指定したこの土地全体をあなたたちの子孫に与え、彼らがずっと有するようにする』と言われたのです」32:11〜13


 モーセ、カッコいいです。怒りにまかせてイスラエル国民を滅ぼしたら、神の名前に傷がつきます。アブラハム契約を大事にして下さいねっていうお祈りです。


 自分の事など一つもお願いしていません。イスラエル国民の悪口も言ってません。指導者たる者、こういう謙遜さが大事ですね。円熟したね。上から目線。


「それで、神は考え直し、先に言った災いを民にもたらさなかった」32:14


 めでたし、めでたし。いや、モーセ怒ってますよ。面白そうだから、私もモーセのあとをついていきます。先に教えようかな? 民は真っ昼間から、外でハレンチな行為してますよって。目の毒になりませんように! 


 次回、「モーセ、石板砕く!」「アロンの弁明」「反逆者制裁」の巻。


 乞うご期待! アロン頑張れー! 

 

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