第7話 いろいろ問題

「まあ、点検は軽いのでしてるよ、保線でも」と、リサ。

お風呂に入りながら。


時々見かけるらしい。



「黒いお湯ってあったまるね」と、めぐ。



「うん」と、れーみぃ。




「さて、ぼちぼち出よ」と、Naomi。




「ぼちぼちって江戸っ子かなぁ」と、れーみぃは楽しい。




「ああ、おじいちゃんが良く言ってた」Naomiのおじいちゃんは郵便局の人。

郵便課だけど。



「お腹空いちゃった」れーみぃは

忘れてた事を思い出す。



「今、お昼頃かな」と、めぐ。



綺麗な音のチャイムがさっき、聞こえたから


それがお昼だったのかもしれないな、と

めぐは思う。





お風呂から出ると、服は乾燥機で乾いていた。




「ちょっとごわつく」と、れーみぃ。




「ま、濡れたままよっか」と、めぐ。




そだね、と、Naomiとリサも服を着て


「どこかで食べたいなー」。




「ありがとうございます」と、リサは

なんとなく代表役。




おばあちゃんは「おーやおーや。あったまったね。お昼まだでしょ。食べてって。

わがいお嬢さんのお口”に合うかな」と



手作りのお惣菜を出してくれた。


野菜の煮浸し、たまご、ふわふわ。

薄いお肉を干して、焼いたもの。



「美味しそう!」と、れーみぃは

とてとて、と近づいて。



「お腹空いてたの」と、おばあちゃんに。




おばあちゃんは、にこにこ。



ふと、柱時計をみためぐは「バスって何時だっけ?」



今、2時。




リサは「二時半」




Naomi「30分しかないね」





おばあちゃんは「どこ行くの?」





KKRいで湯、って


リサが言うと、おばあちゃんは


「あそこなら、送ってあげる。近道もあるし」

国道を行くより、海辺の細い道を行った方が近いそう。


リゾートなので、海辺に建ってるのだそう。




「船も出てるね」

と、おばあちゃんは、寝台特急の終点の駅から

空港行きの船が、岬に寄る便もあり

岬から歩いても10分くらい、との事。



「なーんだぁ疲れたな」と、れーみぃは

安心と、徒労感。



「ありがとうございます」と、リサ。

全く気付かないけど、そんなものだ。

知らない土地。




「それで、夜行列車の車掌さんは船で行ってたのか」Naomiは、納得。



「聞いてみるもんだね」と、れーみぃ。



「あそこは、あんまり宣伝とかしないから。

元々保養所だし」と、リサ。




「保養所?」めぐは。




「うん。社員の別荘みたいなの。郵便局もあるの」Naomiは思い出す。


南の暖かい地方で、家族でのんびりしたっけ。



「なんなら泊まってっても」と、おばあちゃんは言ってくれたけど




さすがにそこまで甘えられないから。

「ありがとうございます、お心づかい」と


めぐは、そう言った。



ご飯を美味しく頂きながら。



「とーってもおいしい!」と、れーみぃは

そういえば、学生寮でも

若者向きの、こってり料理が多かったので


さっぱりお料理は、それで中々。



煮浸しも、普通に見えて

味付けに、えごまを擦ったものが

使われていたり。



面白いのは、麦を炊いて干したものを

お茶で戻して頂くもの。


お茶だと、乾物っぽくなく。

塩を少々。



「戦国の兵糧みたいです」と、リサ。



「そうかもね」Naomi。



地域的に、元々あまり

人の住まなかった寒い地域は

落ち武者の旅先、みたいなところも多い。



日本で言えば、日本海側を沿って

青森までに多い。



例えば、加藤、は加賀の藤原、と言う意味。


○藤、というのは元々そう。



京都から逃れた落ち武者、と言うか

寺院に逃れた藤原一族が

各地に僧侶として移った訳で


それが門徒宗、

経典なども独特で、武家の雰囲気が

色濃く

儀式も簡素であるが、それは武家である為と

言われている。






「ほんで、あの汽車をどうすっと?」おばあちゃんはのんびり。




「機関車を点検して、動かして。

線路も見て、貨車を点検して」と、Naomi。



「あ、ほんなら、あの機関車に乗ってた人に

聞いてみる」と、おばあちゃんは


どこかに電話しに、客間から離れた。



「エンジニアかな」リサは想像する。




「工場だから、経営者さんとか」と、れーみぃ。




おばあちゃんは、沈んだ顔で戻ってきて



工場の方、定年の2日後にお亡くなりになった、と


一言。



「定年の。」リサは、なんとなく思う。

国鉄職員には多い。



激務のせいか、それとも

緊張が解けて

それまで使命感からか、風邪ひとつ引かない

人が

突然倒れるのは、なぜか国鉄職員に多い。



特に機関車乗り。



それほど魅力的な仕事なのだろう。




機関車を降りても、乗りたくて。


構内入れ替えでも、と転職を求めたり


私鉄に転職したりする人も多く



ちょっと、飛行機乗りとか、レーサーに似ているみたいだ。



どの位魅力的なのかは、今のリサには

解らないが



訓練で乗ったディーゼル機関車でも


とても大きな機械を操縦する醍醐味は

確かに感じられた。



機関車ブレーキ弁を掛けたまま、

静かにエンジン回転を上げると

油圧が上がる。

車輪に力が加わる前に、ブレーキを緩める。


空気が漏れる音がして、じりじりと進む。



燃料を調整するといい。

衝撃なく走る。




電気機関車は、もう少し難しい。


走り出しが一番、軸の回転力が強いからだ。





「かわいそう」と、れーみぃは眉を歪める。




めぐは、俯いたまま。

おじいちゃんの事を思い出しているのかもしれない。



「定年と言っても、まだ60才でしょう」とNaomiは、回想。


郵便なら、55才で定年。


国鉄と同じ。


でも、郵便は国鉄ほどハードではないので

定年の後、だいたい再雇用で


非常勤で同じ現場に残る事が多い。





「お墓参りして行こうよ」と、リサ。



「うん」と、れーみぃ。


「お墓どちらですか?」と、めぐ。



「なんだか、あの線路が見える高台のお寺だと」と、おばあちゃん。






4人は、おばあちゃんのクルマで


その丘の上に来た。



「確かに、よく見えるね」リサは

海辺がよく見えるそこ、から


見下ろす。


工場から出た線路が、緩やかにカーブして


ポプラの木の下を通って


岸壁へ延びているのが見える。



Naomiは「よし!絶対走らせよう。機関車。

ここに汽笛が届くよう。」と、


海辺を眺めながら。


「はい!」


「よし!」


「がんばるぞー!」



小さな鉄道だけに、手作りで

育てて来たのだろう。


それだけに、廃線は心痛かったのかもしれない。



「もう少し、早く来ていればね。保存の話」

と、リサ。


それで、生きる希望が持てたかも。



Naomiは「保存する理由、解ったよ。

そんな人達を、乗せてあげようよ」



蒸気機関車の、本物の、音を聞いてもらって

煙の匂いを思い出して貰って。


懐かしい時代を思い出して貰おう。



そんな風に、4人は思った。

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