第5話 なんにもない田舎

「お腹すいちゃったなー」れーみぃは

濡れたまんま、波打際から浜辺に。



7月でも海は冷たいのは、北海岸だから。

暖かい南の海と違って、寒い地方からの

海流。



「そのままじゃ、レストランも入れないね」Naomiは冷静。ハンドタオルでとりあえずは

れーみぃを拭いてあげるけど




リサは、あたりを見回す。



海岸線。岸壁。道路に時々クルマ。


道路沿いには

ガソリンスタンドとか、機械の部品商とか。


コンビニとかも見当たらない。




「海の家とかもないのかしら」めぐは

自分も濡れたままだけど

スカートはいたまま、搾った。

白いパーカーを脱いで、絞る。



「シャツも搾って」 Naomiは側に寄って。




「うん」めぐは、シャツを脱がずに

裾だけ搾った。



白いお腹が見えるけど、赤ちゃんみたいに

柔らかそうで、ぽよぽよ。



「かわいー」って、れーみぃはめぐにほお擦りしたくなって



「ゴメンね、わたしを助けてくれたのに」と、れーみぃはちょっと済まなそう。




「ううん、いいのよ。あたしが転ばなければ

良かったの」と、めぐは思い出して恥ずかしい。




「そだね、ははは」と、リサ。



「どこ行ってもかわんないね、あたしたち」Naomiは楽しそう。




北の青空は、秋みたいに澄んでいる。

海は緑が深い。




「恋はみづいろ」って南の海なんだろな、って

めぐは思った。



青空と海は、どこまでも水平線で分かれてる

けど、それが恋。



そんな歌。



北の海見ても、色が違うから

一緒になんないね(笑)。なーんて。





軽く思った。





「コインランドリーとか、ないかなぁ」



「どこで脱ぐ?」




「そっかぁ、温泉は?」




「近くになさそうね」




とりあえず、駅に戻った4人を見て、タクシーのおじさんが



「あんれ、ずんぶ濡れでねーの。ちょっど待ってな」と、どこかに携帯電話。



日焼けの四角い顔で、にっこり。



「そごの露地を上がったとこ、オラの親類だぁ。今、電話したけへ、かぁちゃんむがえにくっからぁ」



「何語?」と、れーみぃは解らないけど



「ありがとうございます」と、ご挨拶は

お嬢さんらしい。そつのないお返事。




「大丈夫かなぁ」と、Naomiはちょっと心配。



その美貌(笑)が災いして

変な男とか、芸能プロとかが来るので

それで、鉄道学校みたいな硬いところに

入った人(笑)らしい。



リサは「大丈夫だよ、お母さんじゃ。」と

言う間もなく



白い軽自動車のバンが、煙を吐きながら。




ぽろぽろぽろ。ぶーん。ぱらぱら。



と、駅に到着。




「なんで煙出てるの?」めぐ

「SLみたい」れーみぃ

「2ストロークだからね」Naomi。

「ディーゼル機関車みたい」リサ。




Naomiは、家にあるオートバイの一台を

思い出していた。



白いガソリンタンクに、赤と青。

4本のマフラー。


煙をやっぱり吐いて、ギアのノイズも

賑やかに



それは、のんびりしているように見えて

すごい速度で進む。


RZV500R。



低重心なので、高速になるほど

傾け難い、乗り手を選ぶバイクだったので


残っている台数は少ない。



慎重なライダーでないと、転倒必至なのは

エンジンが強力過ぎて、当時のタイヤでは

サーキットでないと滑ってしまうせいだった。





「2ストってなーに?」れーみぃは聞く。



「あとで話すね、それより、乗せてもらおうよ」と、リサ。





「ご親切恐れ入ります」と、なんとなく

車掌さんふう。



長距離列車なんかだと、病人が出たりする事もある。


そんな時は、乗客にお医者さんが居たりすると

協力を仰ぐ。



そういう時、こんな感じだったりする。






「びしょ濡れだっけなーぁ」運転していた

おばあちゃんは、手ぬぐいで姉さん被りの


畠から来た、って感じ。



「椅子が濡れちゃうね」めぐは気にするけど


おばあちゃんは、ははは、と笑って


「いやいやぁ、うしろは野菜用だから」と

スライドアを開けると、椅子が畳んであったのか


埃だらけのとこに、青いビニールが敷いてあった。



「んだなぁ、こんなら気にせんでええ」と、タクシーのおじさんは降りて来て。




「すみません」と、Naomiもご挨拶して

バンに乗り込んだ。


前の席。


金属のドアは、内側も金属のままで

それが、鉄道車両みたいで

リサには好感。


ビニールの内張りは無い方がいいと

思っていたりしたし


革を張るのも、動物が可哀相だと思った。



おばあちゃんは、ドアをばん!と閉めた。


薄いドア、金属音が響く。


「ポルシェみたいね」と、れーみぃ。



めぐは「ポルシェって、ドイツの?」



れーみぃは「うん。お父さんがガレージで直してる。白い、、なんかひらべったいの」



リサは

「あれ高いんだよね」と、庶民的。



まあ、機関車の方が余程高いが(数千万円くらい、日本なら)




「貰ってきたみたいよ。治すならって。ただで」と、れーみぃは平気に。



Naomiは「好きな人ってそうだよね。乗ってくれるなら、って」おじいちゃんがバイク好きなので

それは知っている。



古くなると、自分で直せないと乗れないから

直せる人にあげる、なんて事もある。


後々、直してから乗せてあげたりして。

持ち主としては、




おばあちゃんはエンジンをかける。


電動ねじ回しみたいな、面白い音がして

簡単にエンジンが掛かる。



煙が、たなびく。



オイルの匂い。



「2ストっていいなぁ」と、Naomiが言うと


リサは「そう、れーみぃね、2ストって

エンジンの種類なの。作りが簡単なの」と

解りやすく。



れーみぃは「ふーん、ま、いいか。」



おばあちゃんは、クラッチを踏んで


床から生えてるシフトを、1。



エンジンは、ぽんぽんぽんと

軽快な音を立てる。


「旅行かい、あんだら」と、おばあちゃん。



Naomiは「いえ、学校の実習で、活性白土工場の」と言うと


おばあちゃんは、楽しそうに「遠いとこをわざわざ。村でも噂”になっでんだぁー。あれ。

汽車ぽっぽ、かわいかったもんねぇー」と


いつの間にかいなくなってたおじさんの居たタクシー乗り場を過ぎて


「あ、おじさんにお礼を言わないと」と、めぐは思い出す。

おばあちゃんは、ははは、と笑って

「そっただ事、いいんだぁー。お互い様だんねぇ。それより、汽車ぽっぽ、どうすんの?」




リサは「うちの学校で保存するのですけど、

私達がとりあえず」


おばあちゃんは驚いて「あんれ、女の子”だけで。たいしたもんだなーぁや」と

国道へ出て、ギアを2nd、3rd。


滑らかに加速してゆく。


後ろは、煙がもくもく。


「SLみたい」と、れーみぃは

後ろを振り返って。




おばあちゃんは「んだ。あの汽車も、もう一台は車庫にあってね。昔はそっちが走ってた」と

知らない事を。



Naomiは「そうなんですか?」


おばあちゃんは「んだぁ。それで新しいの作って。朝と夕方、ぽっぽー、って」


思い出すおばあちゃん。


懐かしい記憶なんだろう。


その頃は、まだ、女学生だったのだろうか。


なにせ、一番新しい機関車と言っても

50年前である。

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