第3話 5レ 22時丁度発

「乗り遅れなくてよかったね」と、Naomiは

クールな見た目に似合わず、優しい子。


「そうそう。列車の中、広くて。夏休みなのに

割と空いてたけど」と、めぐ。



「飛行機が安くなったしね。一晩、子供連れだと親も大変だろうし」と、リサは


国鉄職員の身内らしく。


「いやーおばさんっぽい」と、れーみぃは

可愛い見かけに似合わない(笑)言葉。


リサも笑って「そうかなぁ、おじいちゃんの声真似になってたか」



おじいちゃんは国鉄の蒸気機関車乗りで、ディーゼル機関車から電気機関車、と

時代の変化に沿って生きてきたけど

定年間際。まだ、寝台特急の機関車に乗っている。


時々寝台電車も運転するので、この列車にも

時々乗務するらしい。



機関車は2時間しか乗れないので、北へ向かって峠を越えるあたりで終わり。



それなので、22時発車だったら午前0時に山奥で終わり。



では困るので(笑)。帰りの列車、貨物列車だったり、少し休んで明け方の

上り寝台特急を運転したり、と

ハードな毎日。


家族も大変である。昼間寝ているお父さんとかおじいちゃんがいると。



それなので、大きな駅には


乗務員ホテルがあって、寝てから

帰れるようになっている。




リサは女の子だから、仮に

機関車乗りになっても、深夜勤務はない。



それが少し不満なリサだったりするが

規則では仕方ないので


22時までの乗務でもいい、と思っていた。




そういうことを考えてると、おばさんっぽいの

かもしれないとリサは思う(笑)。




「シャワーがあってねぇ。汽車なのに」と、めぐ。



住んでいるあたりは、首都から南西の海岸沿いで

長閑なところ。



土地の人は、国鉄を[汽車]、路面電車を[電車]と、言ってたけど


蒸気機関車の時代の名残らしい。





「汽車って、ふるーいかも」と、今度はれーみぃ(笑)。


お嬢さんだから(笑)。





「そっかぁ、あはは。」と、めぐは笑う。


そんな事ないよ、とNaomiは優しく


「鏡が大きいし、シャワー室広いんでびっくり」



「ちょっと恥ずかしいよね、鏡がこっち向いてると」

と、めぐ。




シャワー室の入口は廊下側だから

脱衣室もそもそも個室だから恥ずかしい事もないけど。


自分の裸体を見るのも、結構恥ずかしい(笑)。


全身写ってしまうと。



めぐなんかだと、割と少女体型で

妖精みたいに可愛らしいのだけど



それには気づかないものらしい。




「Naomiはいいよね。モデルみたいだもん」とめぐ




「めぐの方が可愛らしくていいよ。あんまり背丈があるとね、服も可愛いの着れないし」と、Naomi。




「着ても似合わないしね」と、リサ。


どちらかと言うとさっぱりした顔立ちだから

あんまり、可愛い服は着ない人。




「そっかなぁ、似合うと思うけど。かーいーの。フリフリミニとか」と、れーみぃ。



「かーいーの、ってなによ。痒いの?」めぐ



「よしてよ、気色悪い」リサ。



ふたつが混ざって、Naomiのイメージには



フリフリミニ姿のリサが鏡みて痒がってる姿を

想像。




恥ずかしいと痒いもんね、と


笑った。




何?(笑)と、みんな。




Naomiは笑いながら「ゴメン、あの、あのね。フリフリミニ着て鏡見てるリサがさ。背中痒いーってやってるのを思って」


レモンイエローとか、白のとか。



「それは痒いわ」と、リサも

想像しただけで痒くなった(笑)。




「そっかなぁ、可愛いと思うけど。リサ、脚長いし。いつもスカートじゃないし」と、れーみぃ。



自身は、しかしミニははかない。



ふっくらしてるので、なんとなく

脚の細さに自信なし(笑)。



大抵膝丈くらいで、それが可愛い。




「いいんじゃない?脚出すのって

競争みたいなもんだし。似合う格好すれば。」と、リサは論理的。



機関車乗りの血筋、と言うか

家族ですら列車ダイヤや、時には

災害復旧列車、なんて

都合に合わせる生活は、そういうものだ。


朝早く出かけ、夜遅く帰って来る。



車掌だと、徹夜勤務だから

4日乗務、2日休み。




そんな勤務で、かえって機関車乗りよりは

家族は楽だったから



機関車乗りは、まあ、定年まで乗る人は少ない。




めぐは、シャワー室に映った裸身を思い出して恥ずかしくなった(笑)。




つるっとしてて、柳の枝みたいに

ひっかかりが無くて。




俯いて赤くなってると、みんなは



「熱?風邪かしら」なんて、めぐを

覗き込む。



リサは、めぐのおでこに掌を当てて


「熱はなさそうね」


Naomiは「日射病かなぁ。麦藁帽子でも持ってくれば良かった」と、見回しても、お店はなさそう。


たんぼと畠。



7月の雲。


海。




岸壁から細いレールが二本、まだ、光っている。



「帽子ならあるよー、スペア」と、ベレーがお気に入りのれーみぃ。


白い夏帽子を、リュックサックから出した。

折り畳んで小さくなってる。



それを、めぐの頭にかぶせてあげた。


同じくらいの背丈なので、姉妹みたいに可愛い。






「どこに泊まるの、あたしたち」と、めぐは

ありがとう、と、れーみぃに言いながら




リサは「ああ、工場の中に宿舎があるらしいけど、すぐに使えないだろうし。今日は海岸沿いのリゾートに取ってある。荷物送ってあるよ」と、[国鉄小荷物 戸口から戸口へ]と、CMが

書いてある緑色の薄い紙を見せた。



よく、車掌さんが持っているわら半紙の緑色の。



それと同じチケット。




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