第3話

縁側からよっこらしょと家の中に入ると、おばあちゃん家の匂いと、みーちゃん家の匂いとの違いをいつも感じる。

人によっては埃っぽいとか、お線香の匂いとか、色々言うかもしれないけれど、何となく懐かしさを感じる匂いだなぁと思うのが僕自身の感想だ。


ちょっと待っててね、とおばあちゃんが台所の方に向かうので、飲んでてと出された牛乳を飲みながらのんびりと待つ。


庭の方に目を向ける。

よく手入れされた木々と、その緑を彩る様々な花。

昨夜の雨か、はたまた水を撒いた後か、水滴がそれらを一掃綺麗に映し出していた。

いつもの見慣れた空や景色も、人の家の中から見るだけでこうも違って見えるのだから不思議だ。


目を細めて外を眺めていると、コトッとお皿を置く音がした。

「お待ち遠様〜」

おばあちゃんがのんびりとした声で料理を運んできてくれた。

身の表面が狐色に焼かれているのに、見るからに瑞々しさを保った鯵の開き。

茹でられた後にビシッと水で締められたほうれん草のおひたし。その上にかけられた鰹節の香りが鼻に届いて、否応がなくヒクヒクしてしまう。

その他にも、胡麻の散らされた金平牛蒡に豆腐とワカメのお味噌汁、柚子の香りのするお新香。

よくぞ日本に生まれけりとは、この事だろう!


「では、いただきます。」

料理を前にして、手を合わせて挨拶をする。

おばあちゃんはどんな時でも、この挨拶を忘れない。


むしゃむしゃと料理を頬張る僕に、そんなに慌てなくて大丈夫よと、おばあちゃんが微笑みながら声をかける。

もう何度言われたか分からないが、あんまり美味しいものだからついつい食が進むのも早くなるというものだ。


僕がようやく一息ついたのは、ご飯をもうあらかた食べ終えた頃だった。

お腹一杯になったかしらと、クスクス笑うおばあちゃんに、僕は膨れたお腹を見せつけて返事をする。


うーむ、満足!

にやけた顔を隠すことなく、僕はゴロリと横になった。


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猫日記 @butadon1226

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