魂 ーTAMAー

TMG

  一

 「えーっと、合否の結果は一週間以内に連絡致します。無い場合はご縁が無かったということに…」

 四十半ばの自分より年下の面接担当者は、俯いたまま目を合わせず告げた。ろくすっぽ目を通していない履歴書と職務経歴書を、机にトントン叩いている。もうこの時点で脈がないのはアリアリだ。

 「貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます」

 俺も形だけの挨拶をして、その場を後にした。梅雨明け宣言を迎えた今はうだるような暑さだ。遠くの町並みがゆらゆらと揺れて見える。


 丁度四ヶ月前ぐらいか…とうとう、順番が回ってきたか、というのが正直な感想だ。

 早期退職優遇制度。なんの事は無い。上積みしてやるから辞めてくれって話だ。俺の勤めていた会社は、一応大企業だが、今回で二回目だ。十年ぐらい前にも一度行っていたが、その時は希望者を募った為に、バリバリ営業をこなしてきた社員や企画をあげていた社員が真っ先に手を挙げた為、今回は肩叩きだった。

 見た目も普通、口下手で積極的でも無い俺は、入社当時から内勤で労務や総務を担当していた。

 その時の同期の連中と送別会をしたが、リストラにあった。と悲観的なものではなく、会社を去る側の同期は皆、これからに目を輝かせていた。実際、もっと大手の役職になった者、自分でベンチャーを立ち上げた者、それぞれ成功している。できる奴は先を見れるって事か…

 「これからは、労務や総務なんかも、どんどん人から機械にとって代わるから、お前も資格とか語学とかできる事はチャレンジしとけよ」

 酔いの回った赤ら顔の同期が、そう言ってたな。まさにその通りになった訳だ。という事は、未だに手書きの履歴書を求めてくる会社は、遅れてるって事か。確かに、何枚も同じ事を書かないといけないのは、非効率である。なんだったら、履歴書作成アプリがある時代だ。アドバイスを貰ったにも関わらず、十年間何もしてこなかった俺は、自嘲気味に笑った。そんな会社にすら相手にされていないからだ。


 「このご時世だもの…あってもおかしく無い話じゃないの。焦らず次を探せばいいんじゃない?なるようにしかならないし」

 二月の終わりに告げられた退職の話を、妻は受け止めてくれた。三月末に退社してから、今になっても仕事が見つからない俺に、妻は未だに温かい言葉を掛けてくれる。

 「あなたの良い所は、真面目な所よ。どんな事でもコツコツ努力するのが、あなたの強み。大丈夫、きっと見つかるわ」

 そう言って、微笑んだ。


 そうは言っても、長い不景気でなかなか仕事が見つからないのは事実であり、結果、無収入である。自分の不甲斐無さにストレスを感じる。更に、この猛暑が追い討ちをかける。ハンカチで汗を拭いながら、駅に向かう。朝から三社面接を受けて、精神的にクタクタだ。

 途中にパチンコ屋を見つけた俺は、これからの予定も無いのを言い訳にしながら、吸い込まれるように入って行った。


 

 

 

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