第58話 すずらんさん

「でも・・・わたしの事を、あのひとは知りません。」

すずらんさんは、そう言って。


少し淋しそうに。



「あなたは、どうしてわたしが見えるのですか?」


すずらんさんは、僕の方を見て。


すっきりとして、きれいな人だな・・・と。僕はそんな事を思いながら。



「僕にも判らないんです。ある日、突然に。花の香りがいっぱいな

夜。ラベンダーの香りだったかな。それから。」



すずらんさんは「そう・・・ですか。」



僕と同じ事をしたとしても、同じになるかはわからない。



すずらんさんは、なぜ・・・?その人に見てもらいたいのだろう?




僕はそんな風に思った。




すずらんさんは「でも・・・いいんです。わたしは、ずっと、あの人のそばにいられれば。窓辺から、あの人を見守っています。

わたしにできるのは、それくらいですから」と。



僕は、思った。そして


「その方は、いつもあなたを愛でていると思います。花の姿のあなたを。

それは、とても素敵な事だと思います。姿は見えなくても、美しい花を

愛でる事で、心は豊かになれると思います。」





すずらんさんは「そう・・かしら。」


僕は「はい。そうだと思います。それで、ずっと、すずらんさんに

お水をあげたりしているのでしょう。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る