第55話 Only With

「でも、かすみは

元の世界に戻りたいと思わない?」


ふと、僕はそう思った。


僕が淋しいと思ったから

僕のために、こちら、3次元の世界に来てくれた。

それはとてもうれしい事だけど

かすみたちの世界、次元の違う時空間にも

友達がいたり、家族がいたり。

離れていたら淋しい思いをするんじゃないかな、と

僕は、かすみの気持ちを気遣かった。



かすみは、静かに微笑み

ゆっくりとかぶりを振り ..


「いいえ、こうしていてもいつでも、心はつながっているのです。なので、淋しいことはありません。」



よくわからないけれど、向こう側の世界では、それは普通な事らしい。


時間と空間を、一瞬に飛び越えたりする事が出来ると言うと、僕らの世界だと電話とか、インターネットみたいな感じなのだろうか、と思った。


世界の果てまでも、一瞬に言葉を伝える事が出来たり。


「永遠に変わらない空間もあるのです。たとえば、そのクロッカスさんが何かの理由で、その野原に留まりたい、そう無意識に思っていたら

ずっと、そこに居続ける事だってあるのです。」


ずっと待ち続ける。そういう事なのだろうか。


もちろん、僕らから見ると花は季節の度に枯れ、また芽吹き...

でも、花の心はずっとそこにあって不変だ、と言う事なのだろうか。



そういえば、長い年月を生きる樹木や岩や山、そうしたものに意識がもしあるとすると

空間は動かずに、時間はとてもゆっくりと動く事になる。


だから、古来より

樹木や岩、山などを

神や魂のあるものとして

尊んだ。

その時代は、地球はとても

住み易い星だったのだ。

反対に、今は

そういう気持ちを忘れてしまって

人は、人同士ですら

争うようになってしまった。

だから、遠い記憶を

思い出してほしい。


そう、彼女たち

向こう側の次元のひとは

願っているんだろう、僕は

そう思った。


「彼も、クロッカスさんの事を気にする一瞬があるといいのにね」


僕はそう、思いの通りに言った。


かすみは、はい、と頷く。ふたばは、うんうん、と。


ふたり、それぞれだけど

自然でいいなぁ、と僕は思った。


クロッカスさんには、彼女に相応しい場所があるんだろうな、とも思った。

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