第45話 man's memory, flower's memory

僕は、傍らに咲いている春叙音に気づいた。


桜の、華やかさの下で

ひっそりと、可憐に白い花を咲かせている。


静かに揺れている野の花を、僕は

とても美しいと思った。



時間を掛けて、一枚の写真に納めた。

もう、明日は散ってしまっているかもしれない。


そう思って。



ファインダー越しに揺れる可憐な花は

恥じらう乙女の如き愛しさに思え


ああ、なんて清楚なんだろうと

思う。



春叙音は、ありがとうございますと

俯いてひそやかに告げた。


そんな気がした。



たぶん、いつかは

この花は綿毛を飛ばして

そして枯れゆくのだろう。けれど


僕の、この春の記憶には残る。



もしも、春叙音が憶えていてくれたら

綿毛の種子がまた、近くで花を咲かせて


僕はまた、春叙音を愛でることだろう。

そうして僕も、穏やかに時を過ごしていく....

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