第36話 gentle thoughts

「かすみ」

僕は、尋ねてみたくなった。



「はい?」

瞳を閉じて、空を仰いでいたかすみは

涼やかな声で。

ゆっくりと、穏やかに微笑みながら

瞳を開いた。





「桜は、なんて言ってるの」

僕も、自然に微笑みが浮かぶ。

かすみの姿は、春風に揺れる可憐な花のようだ。






「みんな、おひさまがあたたかいって。」

楽しそうに、そういう。




「それだけ?」

僕は、ちょっと拍子抜け。

散っていって淋しいとか、そういう事を言う花もいるかと

思ったのだ。



かすみは、また瞳を閉じて

桜花の香りに耽るかのように

ふんわりと春風に漂った。



「はい....みんな、一生懸命咲いて。」

そして、結実するのです、と

かすみは言った。清々しく。



「さくらんぼさんになるんですね。」と

ふたばは、にこにこしながら梢を見上げた。




「そう、いっぱい生ると良いわね。

さくらんぼのクラフティを作りましょう、たくさん摘んで」

かすみは、愛おしげにふたばにそう言った。



「わぁ、楽しみですねー。さくらんぼさん、いっぱいなって。....クラフティってなんですか?」


いきなりそういうふたばが、なんか可愛くて


僕は笑った。


かすみも、愛おしげに笑った。





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