第15話 Windness Blue

お天気が良いから、ドライヴでもしようか。


そういうと、かすみは「いいわね」と言うから


ガレージに降りて、どれで行こうかと考える。


オレンジ色のフォルクスワーゲン・タイプ1。


1978年型だ。


かぶと虫、なんて言われている。

「かわいい。」と、彼女はそういうから



これで行く事にした。


一輪さしがついているところが

ドイツ人の洒落、なのだろうか。



空冷水平対向4気筒のエンジンは

独特の排気音がして、僕も気に入っている。

ガレージの中でエンジンを掛けると

ぱたぱた、と


羽ばたいているような音が響いた。



さあ、いこうか。と


僕は、パセンジャー・シートにかすみを乗せて

走り始めた。



陽光と風のエリアが、僕らを祝福してくれている。



シーサイド・ラインに向けて、僕はハンドルを切る。


カー・レディオをFENにチューニング。


午後のこの時間、ボサ・ノバ仕立ての

軽いジャズ・インストルメンタルが流れた。



「....わたし、あなたと同じ世界に生まれたかったな」


かすみは、淋しそうにそうつぶやいた。



どうして?ずっと一緒にいようよ、と僕が言うと



「それはできないのよ。だって...」と

涙声でかすみはかぶりを振った。



開いたウインドーから巻き込んだ潮風。


それが、白い花弁を、ひとひら、ひとひら。




風に舞いながら。



僕は驚いて車を止め、ウインドーを閉じた。


エンジンの音だけが響く。



「.....ありがとう。やさしいあなた。でも、もう...時間が。」



かすみは、途切れ途切れにそう言った。


はらり、と花弁がパセンジャー・シートに零れ落ちる。


涙のようにも見えた。



あまり突然の事に、声も出せずにいると


ささやくように「ありがとう....

いつかきっと、戻ってくるから...」



それが、最後の言葉だった。



渚ドライヴウェイに、午後の陽射しが

傾き掛けていた。



僕は、声も出せずに泣いていた。


いつまでも、そうしていた。






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