第6話 dear liz

その声は、天上のものと思わせるほど

可憐で、神々しく、涼やかだった。


フィーリングに直接語りかけてくる感じ。


ほんとうに声なのかはちょっとわからない。

なぜって、夢だから。



夢をみている自分を、覚醒していると

客観するような感じだ。



アナタ、ハ

ドナタデスカ?





語りかけてくるようだったので

僕は、ここのバイトさ、と答える。



ここ、と言ってわかるかどうかも分からない。

なぜって、今どこにいるか分からないんだから。




ソウデスネ。



と、知っているふうな答えなので


「どうしてそう思う?」


と言う。するとその声は



シンジナイ、ト、オモイマスケレド、ワタシ...




声の主は、押し黙る。



僕は、声のする方向をイメージ。


たしか、花束につかうかすみ草のあったあたり。

白くて小さい、可憐な花。


控えめに咲くあたりが好きだ。


人目を惹く大輪の花もいいけれど

でも、僕は


こういう花がいいな、と

そう思っていた。


恋人にするなら、そんなイメージの人がいい

なんて思ったりもした。



でも、それは夢想の中のことだけど。





僕は、ひやり、とした空気を感じ


ふと、我に返る。



視界に入るのは、いつも見慣れたバイト先の店。


床に、僕は倒れていたらしいと悟る。



強い、百合の香りがたちこめていたが

路面電車が風を巻き、店の中の雰囲気を霧散した。




僕は、さっきの夢想に自嘲した。




...変な夢だな。




可憐な声に惹かれた、なんて,,,,






ふと、思い返し

かすみ草のあたりを見る。




.....変な夢だな。




笑いながら、無数にあるようなその

可憐な花に近づき、眺めていると




「.....そんなに、見ないでください。」




こんどははっきりと、聞こえる。



さっきと同じ声だ。



「誰?どこにいる?」僕は、驚いた。


誰か店に入ってきたのかと

そう思った。




「いいえ、誰もいません。わたし、あなたの目の前の」





誰もいないじゃないか、と言い掛けて

さっきの夢想を思い出した。




声の主は、微笑んだような声で


いいえ、夢ではありません。わたしは、あなたの目の前の。





まだ夢を見ているんだろうか、と

思った。だが


その声になぜか心惹かれる。


どうしてだか、声だけなのに...

そんな事ってあるだろうか。



心がときめいた。





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