第2話 rite of spring

この家は、坂の途中に建っていて

二階の部屋からは海が見えるから

朝、晴れていたりすると

遠い渚と岬がよく見える。


ぼんやりと、それをながめて

のんびりするのは、とてもいい気持ち。


ここは別荘地だから、緑が多くて静かだ。

道も広いし、めったに人はやってこない。

半地下のガレージが広く、父や兄が遺した

自動車やオートバイが沢山パークしてある。


僕はいつも、その中からチョイスして

アルバイトに出掛けるのだ。


ゆったりとした時間。


それを大切に生きたいから、そうした。


もっとも、夜は好きな音楽を演奏したいと

言うのもあったのだけれど。




さあ、今朝も珈琲にミルクを合わせて

ゆっくりと朝食を採り、それから

ギターを弾いたりして。


午後から、いつものフラワーショップでバイト。


今日は、晴れているからオートバイで行こう。


ガレージへ降りる。


何台かあるオートバイから、銀に輝くVツインに

陽光が当たっているのに気づく。


..今日は、これにするか。


Moto Guzzi V7sport。


イタリアン、低く身構えた短いハンドル。

グラマラスなエンジン。


とても魅力的だ。



イグニッションを入れて、キックすると

荒々しい響きがガレージを揺さぶった。



この瞬間が、最高。


V7は、生き物のように体を揺さぶりながら

アイドリングしている。



僕は、ヘルメットを被り

V7を駆って、静かに坂道を下る。



さあ、花が待っている。



ヘルメットの中に、春の香。


Vツインの排気音と、エンジンの鼓動がそれを彩る。


楽しいよ、生きていて。



これ以外に何が必要だ、と言うのだろう。

生活するのって楽しいさ。


僕は、そんなふうに思った。




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