第6話 return to now

「おやすみ、めぐ」

「おやすみ、リサ」


リサのお部屋で、なかよく眠るふたり。

もちろん、めぐも

眠ったまま、夢の中でリサに会うのだ。



それは、もちろん魔法で。



疲れていたから、ふたりとも

すやすやと眠る。


めぐは、もちろんリサの記憶と、おじいちゃんの事を考えて。




そうすると、そこの部位の神経細胞が

起きてて。


NONーREM睡眠になった時、記憶を解放しはじめる。



リサは、もちろんおじいちゃんの事を

気にしていて



よく眠れないと言うから、その神経は

起きてる。



それで、夢を見る。





めぐは、リサの夢にお邪魔して。

おじいちゃんの記憶を見た。



おじいちゃんは、白髪で短い髪。



黒い制服、衿の詰まった服で

機関車、燃え盛る炎を湛えた蒸気機関車に

乗っていた。


たぶん、それは

おじいちゃんが一番、好きだった頃の記憶。




リサの夢では、そのおじいちゃんが


後継ぎがいなくなって、淋しい思いをしていると


そう言う結末になって。


それが、無限ループになっている。




つまり、思い込んでいるので


その記憶が強化されてしまっている。






「そっか」めぐは、リサに

天国のおじいちゃんに、会いに行ってもらう事にした。



それが一番いいと思って。




もし、会っても「夢」だから

魔法だとは気づかない。




天国はもちろん異なる世界だから


実体を持ってれば、入れない。


でも、心だけで通じる事はできる。




心は無限に自由なので、思い合っていれば。




天国も時空間、つまり11次元隣接宇宙の

ひとつ。




イメージで、それを呼び寄せる。





意識はもともと0次元の存在、自由に

飛び回ってゆけるけれど



飛び方を、ふつう知らない。



たまたま飛んでしまった人が

天国を見たとか、そんな事を言うけれど



構造は、そんなものだ。





「あたしも、おじいちゃんに会いたいけど」めぐはでも

今は、リサの事が大事。



リサの夢を、天国のおじいちゃんの夢と


接続した。












「リサ」おじいちゃんは、優しく

リサに微笑む。




「おじいちゃん、会いたかった。

ごめん、ごめんなさい。

わたし、レールの上を決まった人生なんて

嫌、なんて言って。

ばかだったの。わたし」リサは泣く。



おじいちゃんに縋って。




そのひとことを言いたくても

言えないから。



それで、リサはおじいちゃんのために。

そう思って路面電車の運転手さんに

なろうと必死。

でも、うまくできない。




「リサ、わしはわかっている。

悲しいなんて思ってない。

リサが、辛い思いをするほうが

わしは、辛い。」おじいちゃんは

優しく微笑んで、リサを抱き寄せた。




「わたし、わたし......。」リサは

子供に戻ってしまって、泣きじゃくる。




よしよし、と

おじいちゃんは、リサを抱き上げ、

機関車に乗せた。



「ブレーキを握ってみろ。わしが教えてやる。」おじいちゃんは、機関車をゆっくりと走らせる。



逆転機を少し回し、スロットルを開く。



すぐに、スロットルを戻す。


逆転機を解放すると、機関車は

重い客車に押されて、レールの上を滑る。



「いいか、ブレーキを掛けた時の遅れを

考えるんじゃなくて、重さを感じるんだ。

少し掛ける、効き具合がわかる。

毎日違うぞ、天気でも違う。

最初は、そうして覚える。



そのうち、同じ場所なら

感じがわかる。そういうものだ。




おじいちゃんは、リサの手に自分の手を添えて

ブレーキハンドルを回した。



少し回す、空気が漏れる音がする。


減速が体に伝わる。





「この感じなの?」リサに笑顔が。




「そうだ。それを、ブレーキ・ノッチ毎に

感じ取るんだ。電車の方が楽だから

この機関車でできれば、絶対出来る。

わしがついている。できないはずはない。

わしの孫だ。」



リサの頬を、涙が伝った。



機関車は、停止位置で

静かに停まる。


それは、夢だから?



いえいえ、リサが自信を持ったから。


失敗したくないと言う思いが

リサの感性を鈍らせていたのです。




おじいちゃんがついている。




安心感が、リサの能力を発揮させました。




よかったね、リサ。



見ているめぐも、なんとなく幸せです。







翌朝......。

すっきりと目覚めたリサは、元気です。




「おはよう、めぐ」と。



めぐは、ほとんど起きていましたけど


少し眠くて。



「ふぁ?」と。





でも、爽やかなおめざめ。




リサの、爽やかさの訳は

めぐにもわかります。




「夕べ、夢におじいちゃんが出てきたの。

夢、なのかな?



おじいちゃんは、機関車にわたしを乗せてくれて。


運転を教えてくれた。



わたしの事を、悲しんでいなかったの。




と、リサは、嬉しそうに言いました。




めぐにも、嬉しさは伝わってきます。


もう、リサは悩む事はないでしょう。



おじいちゃんがついているんだもの。


機関車乗りの血が、ふたりを結び付けたのでしょうね。




鉄道員の血。


警察官の血。


郵便局員の血。


図書館司書の血(?)






いろいろあるかもしれないけれど。




それぞれに、記憶の中の

懐かしい思い出が、それぞれを

呼んでいるのかもしれません。




ひとは、社会に生きていて。


社会から、何かを得て。


その社会を育てて行く、守って行く。




そんなふうに、生きていく事も

ひとつの在り方なのかな、なんて

めぐも思いました。






リサのお母さんと、お父さんと。


リサと。



リサの弟と。




ちなみに、リサの弟は

17歳です。


いまのめぐと似たような年回りで......



なんとなく、ロマンスがめぐと

芽生えそうな

そんな雰囲気もあったのですけど(笑)。





目が会うと、ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らせたり。


少し、俯き加減に

めぐの様子を伺ったり。





ちょっと、それも

楽しい恋かもしれません。




思っている瞬間が、恋、なのです。




でも、悲しいかな、めぐは異次元の恋人です。





それを知る人はめぐ、だけなのですけれど......。





リサの弟さんが、めぐを訪ねて

もし、図書館に行ったら

びっくりしないといいけど、と


めぐは思いました(笑)

まだ見ぬ、21歳の自分に。





めぐの記憶の中にも、リサの弟の事は


なんとなく、残っている。


ひとつしか歳が違わないのに、なぜか

とてもかわいらしい、そんな少年に思えた

のは


(本当は4つ違いになる訳だが)。



それは、めぐが魔法使いだからと言う


訳でもなく(笑)。


リサの弟が、純真で愛らしい少年なのは

お姉さんリサが、可愛がっていたから、そんな理由もあったりする。




人って、そういうもので

可愛がって貰えると、その思いに

沿ってあげようと


そんなふうに思ったりもして

自然に、演じてしまったりする。




本当に、なりたい自分。



そういうものは、実はあまり明確なものではなかったりするので



リサの弟の場合、そのせいで

めぐから、カワイイ男の子、と

思われる事は



彼にとっては、少し

不本意な事だったのかもしれない。




お姉さんの友達。



でも、この日のめぐは


18歳のままだったので



17歳の少年にとっては、魅力的だったのかもしれな(笑)。








突然、恋は始まったりするが



突然、終わったりもする(笑)。






めぐにとっては、リサの悩みが消えたら


もう、この3年後の世界に

用は無くなったので




すぐにでも帰りたいところ。



元々の3年前の時間軸は

例によって


ほとんど停止している




あまり長時間になると、元々の時間軸がゆっくりでも動いているので

芳しくない。





「じゃ、帰るわ」と

めぐは、リサにそう告げる。




一宿一飯の恩義、ではないが(笑)

朝ご飯の片付けなどを手伝って。



リサのお母さんから、図書館司書試験の話とか聞かれても

さっぱりわからないので(笑)閉口したり。



リサの弟が、図書館に勤めたい、なんて

言っているらしくて。


それはそれで、いい事だけど



それが、めぐと一緒に働きたい、なんて


かわいい願いだったら、ちょっと困る(笑)。




もしかして、21歳のめぐは



リサの弟に、恋を告白されたりしてるのだろうか(笑)

なんて。


それはそれで楽しいかもしれないけれど。




「いつから、そんなふうに思ってくれてたんだろう」と

めぐ自身には覚えがないので


それは、ひょっとして

ハイスクールを卒業してからの

事なのかも。

めぐは、リサの出社と一緒に



ミニクーパーで、路面電車の車庫まで行って。

少し、リサの仕事ぶりを見学してから


帰る事、にした。





身支度をして、リサと一緒に出かけよう



とすると

彼は、切なそうに見つめる。




かわいいわんこみたいで、めぐは、


思わず、リサの弟の髪を撫でる。



好きな、めぐお姉さん(笑)に

触れてもらったのに、


彼は、少し不本意な感情が湧いてくる。




甚だ不条理だけれでも、感情はそういうもので

論理的に出来てはいない。



元々、愛でてもらう事に慣れていて

それが好きな訳でもないのに、愛でてくれる人の

気持を考えて、合わせていた彼。




でも。


めぐお姉さんを、恋の気持で見つめている彼は


対等に。


そう思ったりもして。


それまでの演技の殻を、拭い去りたいと無意識し

それが、不本意な表情になって表れた。





どこまで行っても、お姉さんはお姉さん。


だけど、この日のめぐは、18才のめぐが

タイムスリップして現れたので



お姉さん・っぽくなくて。



それが、彼の抑制を壊した。




彼のクラスメートと同じくらいの年齢に、好きなお姉さんが

降りてきてくれる、なんて事は

魔法使いの知り合いでもないかぎり、あり得ない事(笑)。



それが、起きた。






おとなしい少年、リサの弟は

それでも、そこまでで思いとどまった。


心の中では、本当は


めぐお姉さんを抱きしめてしまいたい、その場でと

そんな風に恋しく思っていたのだろうけれど。







もちろん、めぐお姉さんが


そんなことに気づく年齢ではない。(この日は、18歳の彼女なのだから)。




そういう事は、年齢を経て学習する事である。







「さ、いこっか。」と、その場を離れていたリサが


出かける支度をして戻ってきて。


一緒に、MiniCooperSに乗って、出かけていく


ふたりの後ろ姿を見送る、彼は


どうしたらいいのだろう?と


内心、忸怩たる思いで、それを見つめていた。









つまり、めぐにとって

この場を離れて、3年前に帰る事は

正しい事、である。





その前に、すこし


リサに付き合ってから。


と.....。


めぐは、市交通局の

路面電車車庫へ。



ミニ・クーパーSに乗って。



「じゃ、わたし行くね。お家へ帰るなら

電車乗ってって。無料でいいわよ。」と


リサは、楽しく家族的なこの勤め先らしい言葉で

別れを飾った。



めぐは、頷く。


今度、(3年前の)夏休みの登校日でリサに会ったら

悩みが癒されるように、言葉を掛けてあげたい。



「おじいちゃんは、リサを誇りに思ってるよ」って。



でも、未来を見てきたとは言えないけれど(笑)。





電車の車庫って、独特の匂いがあって。


それは、鉄の匂いだったり、油の匂いだったり。



大きな機械が、動いている。


生き物のように、ごはんを食べて、

寝て、起きて。


車庫って、電車のお家なんだろうか、と

めぐは、そんなふうにも思ったり。



レールの間が、枕木と、砂利があって

黒く、油が染みているのは

あちこちを治した時に

油が落ちたのだろうか。



それぞれの電車の、生き様が

レールの間に染みている、そんなふうにも思えたり。



ちょっと薄暗い車庫は

屋上が緑地公園になっていて


幼稚園のこどもたちが


喜んで駆け回れる、そんな場所になっているのと

好対照、明暗、そんな感じだけれども

社会を足元でささえる都市交通、


そんな、交通局のポスターみたいな(笑)


そういう構図のようだと

めぐは、思う。




その運転を、どうしてリサや

おじいちゃんは使命感を持って

していたのだろう?




たぶん、それは、生き物としての

群れを守ろうとする本質。



群れ、則ち社会である。


生物社会学、と言う

京都大学で興ったジャンルでは

家族、群れの最小単位を持つ生き物が人間であると定義している。


家族を愛するから、社会を愛する。




それは、正しい事。




ーーーもちろん、めぐがそんな事を思ってる訳でもない(笑)。







しばらく、車庫で電車を見ていると



事務所の方から

、リサは



緑色の整備服を着て。



電車のハンドルを持ち。



昨日の、古い電車に


乗り込む。




ビューゲルを、すっ、と持ち上げて

電車は目覚める。



空気圧縮機の音がして。



電車は、眠っていた猫が伸びをするように

走る準備をしている。





運転席では、リサが

機械の点検をしている。




指をさしたり、スイッチを動かしたり。




そのうちに、老練の教官が厳めしい顔で

電車に乗った。




お願いします、とでも

言っているのか、リサが

教官にご挨拶。





教官は、意外ににこやかに挨拶を返した。


顔は怖いみたいだけど、案外優しいおじいちゃんらしい(笑)。





そんな事もあるものだ。




リサは、昨日のブレーキ訓練の

続き。

まっすぐ、走り出して目標の、模擬信号、


木でできた腕木信号のところで停める。






さあ。






リサは、意外にリラックスしている。




ほんとうに、おじいちゃんがついているような。



そんな気持ちなのだろうか。







ブレーキを解放し、

電力を静かに増やす。


マスターを捻る。



古い電車は、唸りを上げて

モーターをまわす。

ギアが唸る。



速度を確認し、電力を解放、ブレーキを回す。




リサの意識を、昨夜の夢が過ぎる。





おじいちゃんがついているもの。



その自信だけで、しっかりブレーキを回せる。



失敗などする訳もない。



ブレーキのハンドルから、空気が抜ける音がして。


電車は、重々しく減速をする。


その減速度を体で感じて、目標に届く前でブレーキを解放、惰性で停止し

ブレーキを車両が動かないように掛ける。






目標、停止!と


リサは、目標を指差した。





教官は、嬉しそう。



よしよし、と

リサの肩を叩いている。




「これで、試験、うまくいくね。」見ていた


めぐも

うれしくなった。





もう、大丈夫だね。



よかったね、リサ、と

めぐは、心でつぶやいた。




Summer Holiday

リサの試験を見てから帰りたい。

そんなふうにも思ったけど


めぐは、とりあえず時間軸を3年戻して。



元の世界に戻った。




瞬間的に消えるので



電車の運転席から見ていたリサは


一瞬で、めぐが

消えてしまったように思った。



そんな事を、神隠しなんて言ったり

テレポート、なんて

SFっぽく表現したりもするんだろうけれど


実際は、時間軸が動いただけ、だったりする。




時間軸を戻すだけなら、別にどうと言う事もなく



いつもの魔法で、もう、慣れてきた。





めぐは、スムーズに魔法陣を使い


3年前、つまり

元々生活していた時間軸に戻る。




「でも、いろんな年代での経験が

増えすぎて」

18歳らしく無くなっちゃうかなぁ(笑)


なんて思ったりもするし




リサや、Naomi、れーみぃの将来の少し、手前を

めぐは知ってしまっているので



それを言うと、予言、みたいな感じになっちゃって。




「占い師になれちゃうかも(笑)」なーんて。


めぐは、テレビで見た

予言をする占い師さんの事を

イメージしたりして、楽しくなった。



三角帽子で、目だけ出して

水晶玉を覗き込んだりして(笑)。






「アルバイトになるかなぁ」なーんて。




その度に、未来へ飛んでいたら

疲れちゃいそうだけど。




そんな事を思い、それで連想するのは

リサの弟の事だった。





3年後、あんな事が起こる

ずっと前から


リサの弟は、かわいい気持ちを

心に持っていたのだろうか。



たぶん、今はまだ15歳くらいのハズ。





かわいい少年、そんな印象しかなかったけど。






ちょっと、意識しちゃうと


リサの弟に、あまり出会いたくないような、そんな気持ちにもなる(笑)変なめぐだったり。






思った通り、3年前の

元々の時空間は、飛び立った時と


ほとんど時間軸が進んでいなくて。



お寝坊の朝(笑)。



その間に、

3日くらい生活してしまうのだから




「老けそう(笑)」と

めぐは思ったりもした。


でも、過去に戻って


そこからタイムスリップすれば

いいような、そんな気もしてきて。
















次の日。

登校日だった。


夏休みは、登校日が来ると

そろそろ終わり、なんて気持ちになってきて。



お祭りが終わっちゃう、なんてイメージ。



すこーし、ブルーになっちゃう

めぐだった。



いろんな事、あった夏だった。


回想しながら。学校への並木道を

歩いていると、赤いお屋根のスクール・バスが

ゆっくり、ふんわり。

登っていく。



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