第5話 raimy


Justice

意外に勇ましい排気音は、Mini Cooper S。


作られた年代が旧いので、機械っぽい荒々しさのあるサウンドで

そのあたりは、MotoGuzziと良く似ている。


あまり、ノイズに気を使わない時代の車。ギアや、エンジンの音も

機械そのまま。


そこが、機械好きには好まれる。



「さ、行くよ。」と、れーみぃは、にこにこしながら

ヘルメットのバイザーを下ろし、電車車庫から

街路に出た。




曲がりくねった山沿いの道は、さっき来たとおり。


木が生い茂っていて、少し薄暗い。


ゆっくりと、40km/h程度でMotoGuzziを走らせる、れーみぃ。


背筋もしゃん、と伸ばして、凛々しいハイウェイ・パトロール。



目前の交差点。



真っ直ぐ昇って丘を越えて、いつもの街に戻る。




と.....。



左側の海沿いから。

ダッヂ・チャレンジャーSが、太いサウンドを響かせて

いきなり一時停止せずに、飛び込んできたので

丘から降りてきた、対向車線のフィアット500は

急ブレーキ。

衝突は避けられた。




ダッヂは、そのまま交差点を通過して、右手へ。




れーみぃは、勤務時間外だけど

青色回転灯を付け、サイレンを鳴らす。


ギアを3速に落とし、急加速。



トルクのあるMotoGuzzi 1000は、それでもリア・タイヤをスライドさせて

交差点を右に。




無線で、周囲のパトロールカーに連絡する、れーみぃ。


「こちら、Mary-Seven#3、逃走車両を追跡中。車両は黒のダッヂ・チャレンジャーS。

市交通局電車車庫横交差点を、海側より山の手の住宅街へ逃走。

付近のAdam-Seven、応答願います!。」




モトローラ無線から、FMのノイズが流れ、次いで、応答。



「Mary-Seven#3,こちらはAdam-Seven#30。 住宅街に居る。

中央街路で封鎖する。応援願う。」


と、パトロールカーから連絡。

れーみぃは「こちら、Mary-Seven#3、了解。追跡を続ける。」



追って、本部から「あ、本部だ。れーみぃ?勤務時間は過ぎている。

深追いはするな。以上。」と、部長の優しい声。


れーみぃは、追跡を続けながらヘルメットの下で微笑む。


「こちら、Mary-Seven#3、本部了解。部長、ありがと。」と。



余裕のあるれーみぃは、MotoGuzziのスロットルを開き

逃走車両を見失わないように追尾。





その様子を、NaomiはTR1と一緒に。追いかけながら。


「かーっこいい。映画みたい!。」と。



めぐは、リアシートで「ほんと。」

お巡りさんって、危ないけど、かっこいい....。




リサは、ミニ・クーパーをドライブして


友人れーみぃの、勇姿に感激していた。



「わたしも、あんなふうに。」

みんなのために役立ちたい。



そう、おじいちゃんはそれで、国鉄の仕事に一生を捧げて

定年になったら、すぐ天国にいっちゃったけど。


その気持を、わたしも受け継がなくっちゃ。



そんな風に、考えていた。







ダッヂ・チャレンジャーのドライバーも

別に、逃げなくても良かった。

でも、なんとなく追われてしまうと、逃げたくなる(笑)。


そんなものだし、ドライバーって

腕試しに、白バイを振り切った、なんて


自慢のひとつもしたくなる事も、たまにはある。


そんな理由で、曲がりくねった道を


飛ばして、逃げていた。


けれど......。




目の前の住宅街、並木道の真ん中に


横向きに見えるのは、パトロールカーだった。




ちらりと、バックミラーを見ると

白バイは、付かず離れずで付いてきていた。



「goddem!!!」




パトロールカーのドライバー、Steveは、アメリカン。

ブロンド、ブルー・アイの大男。


無線で、れーみぃに連絡「れーみぃ、こちらはスティーヴ。目標発見。

道路は封鎖中だ。念のため離れていてくれ。銃を構える。」



「了解」れーみぃは、エンジンを低く抑えて距離を取る。

銃弾が当たらないように。





Steveは、腰のホルスターからリボルバー銃を取り出す。

S&W357マグナム、ハイウェイ・パトロールマン。


文字通り、この仕事の為に作られた銃だ。


それを取り出し、ドアを開いて車の反対側から来る


ダッヂに向けて銃口。






マイクで叫ぶ。




「停まれ! 停まらんと撃つぞ!」



そこまで言われると、ダッヂの男も

逆らいたくなる(笑)。



不条理だが、そんなものだ。




パトカーの手前に路地を見つけて、いきなり右折して後退。


スイッチ・バックして


元来た道を戻り始めた。




つまり、Naomiやめぐ、リサの方向へ突っ込んでくる訳だ。



その前に、白バイのれーみぃと鉢合わせ!


「危ない!れーみぃ、避けろ!」スティーヴは、無線で叫ぶ。



れーみぃは、落ち着き払っていた。



スティーブと同じ、S&Wマグナムを腰から抜き、MotoGuzziのハンドルを支えにして

照準を構える。




マイクで叫ぶ。「停まりなさい!」



ダッヂは、そのままMotoGuzziを避けて通過しようとした。




カーブを曲がって、めぐたちの乗ったTR1はちょうど、ダッヂの目前!




「危ない!」



れーみぃは、ダッヂの後輪にマグナム弾を撃ち込む。



命中!




コントロールを失ったダッヂは、カーブでスピン。



めぐたちのTR1のすぐそばへ。




「いやっ!」

Naomiは、ブレーキを掛けて、路側へ避けた。



でも、後ろにめぐが乗っていたので、動きが間に合わない。



「あぶない!」と、めぐは思った瞬間.....。


TR1とNaomi、それとめぐは

瞬間、宙を舞って歩道へと軟着陸(笑)。



もちろん、めぐの魔法である。





後ろにいたリサにも、理由が分からない。



ダッヂは、並木にぶつかって停止した.....。




「こちら、Mary-Seven#3、逃走車両は停止、ドライバーに怪我はなし。

後輪パンクの為レッカー願います、本部どうぞ。」

れーみぃは、無線で本部に報告。


「本部、了解。れーみぃ、お疲れ様。」と、部長の声。



れーみぃに安堵の表情。




TR1を歩道から出して、Naomiはゆっくりとれーみぃに近づいた。


「すごいねー。かっこいい。」




れーみぃは、柔らかな表情。


さっきの凛々しいポリスの顔とは違って。




「ううん、でも、どうやって空飛んだの?」と、れーみぃは

見ていた。





「わかんないの。」と、Naomiもその理由には気づかない。


めぐ自身も(笑)。




咄嗟だもん。






HighwayPatrol

れーみぃは、「とりあえず帰還しろー。」と言う

とぼけた部長の無線声に従って(笑)



現場をスティーヴに任せ、めぐ、リサ、Naomiと一緒に


ハイウェイパトロールの本部へ。


本部もまた、町外れにあるハイウェイのインターチェンヂの近く。


さっきの交差点へ戻って、丘を下ったあたりにある。



ハイウェイはたいてい、山の方にあるので

どこの街でもそんな場所。




広い敷地に、白い大きな建物が建っている。



青い回転灯を点けたまま、れーみぃのMotoGuzziは

ヘッドライトを付けて。



ふつう、白バイは夜は走らないから

結構目立ったりするし


後ろのTR1と、MiniCooperも

あまり見かけない車種で、女の子ばかりなので


それも、目立つ理由だったりする。





本部に着いて、MotoGuzziを車庫に格納し


「じゃ、やっとお茶できるね。」と笑うれーみぃ。




「どこで?」と、言問い顔のめぐ。



「警察カフェ」と、れーみぃは笑う。



「えー?」とリサも笑う。こんな瞬間、悩みは忘れてる顔に戻ってるから

友達は有難い(笑)。





「ハイウェイパトロールも24時間営業なの。郵便局みたいに。」と

れーみぃ。




めぐは連想する。「ここにも温泉とかあるのかな?」(笑)。






点呼があるから、一緒に来ていいよ、と

れーみぃ。




「あたしたち、お巡りさんじゃないもの。」とNaomiが言うと



「大丈夫、市民に開かれた警察だから、うちは。部長も

女の子大好きだから(w)。」と、れーみぃはにこにこWink。





いいのかなぁ...。と、

車庫からの通用口を歩いていこうとすると


TR1とMiniCooperSには、人だかりが出来ていた。


バイク好きのハイウェイパトロールマンだから。

みんな、気のいい連中だ。



クラシックの名車だもの。






白い廊下は、明るい雰囲気で

警察署、と言う厳しい雰囲気は全然なくて。



指令所に居た部長は、優しげな感じの管理職、と言う雰囲気。

アメリカンだろうか、ちょっと髪の毛が軽くなっている

50歳くらいのひと。



「Reimy、待ってたぞ。無事だったか。

後で報告書。その前に終了点呼。」と、部長。



れーみぃは、「はい部長。この人たちは、クラスメート。無線でお話した。」



部長は「ようこそ。わたしはここの管理者、ギトレアです。」と

にこやかに、ご挨拶。




とーっても怖いのよ、と、れーみぃ(w)。



よせよせ、と、部長は手を振りながら「ごゆっくり。二階にカフェがあります。

個室が宜しかったら取り調べ室も空いてますし。」と


ユニークなジョークも忘れないところは、明るいアメリカンらしい。



留置場にも泊まれますよ、と言うあたりはブラック(w)。



「留置場なんてあるの?」とNaomi。



「うそうそ」と、れーみぃ。



交通警察だもの、と。






部長さんのお勧めに従い(w)2階のカフェ、と言うか

レストラン、みたいなところで



れーみぃの登場を待つ、みんな。






「おまたせー」と


れーみぃは、私服で戻ってきた。


涼しそうな夏服、

真っすぐの黒髪は、斜めにまとめて。



ハイスクールの頃と、変わらないように見えて

その事が、めぐを微笑ませた。




もちろん、めぐはタイムスリップしてるので


そのままハイスクール・スチューデントなんだけど



その事は誰も知らない。




警察カフェ(笑)は、コーヒーの類は

好きに飲める。


でも、外から人が入ってこないのは



「なーんとなく警察って怖いって思われてるのかしら」と、れーみぃは言った。






「それは.....そうかもね」と、Naomiは笑う。



そうよね、と

れーみぃも笑う。




みんなも笑った。




そこに、パトカー、

Adam-Seven#30のスティーヴが戻ってきて。




「楽しそうだね」と。





「けーさつは怖いとこ、って話してたの」と


れーみぃはユーモアたっぷりに。




紹介してよ、と言うスティーヴと、となりのフランク。



フランクは、メキシカンらしく


縮れ髪、色浅黒く。

敏捷で、親しみのある青年。




れーみぃは「ああ、パトロールの先輩のスティーヴとフランクね。さっき会ったでしょ?


こっちは、ハイスクールの仲間。



めぐは図書館司書、だっけ?(笑)

リサは路面電車の運転手さん。

Naomiは郵便屋さん。






それぞれに、宜しくご挨拶。





フランクもスティーヴも、青年なのに

ハイスクールくらいの男の子とちかって

あんまり怖い感じがしないと

めぐは不思議に思った。




それとも、それが本当は怖い恋の罠なのだろうか(笑)などとも思った。





「女子高なの」と、れーみぃは続ける。






「へー、女子高!いいなぁ、なんか。

学園祭とか楽しそう。」と、フランクは

気さくに話す。



気取ったところのない彼は

誰にも好かれそうで。


親しみのあるお巡りさん、そういうイメージ。



町の中で困っている人を見つけたら

親切に、力になってあげる。



そんな感じの人。





リサは、おじいちゃんたち

国鉄の人たちと同じ雰囲気を


フランクや、スティーヴに感じた。



それで、心温まる思いがした。

それで、試験のプレッシャーも思い出した(笑)。





フランクは、リサの表情を見つけて

「どうしたの?お嬢さーん。」と


おどけたので、リサも、心和む。



Naomiは「この子、こんど試験なの。それでね。


みんなで励ましてたのよ。」と。




スティーヴは「やっぱりいいなぁ、高校の

友達って」と、明るく笑うので



Naomiも、ちょっとその直裁さに

心惹かれた。



ひろーい平原で、羊飼いでもしていそうな

彼の朴訥さに。



「俺も、試験は緊張したっけなー。」と

フランクは、ひとなつっこい笑顔で。


「ここの?」と

れーみぃは言う。




うんうん、とフランクは笑い、



「だって、住所不定だもんなぁ。」と。



れーみぃは「フランクはね、モーターホームに住んでたから」と。




そんな、ユニークなフランクを

採用する警察って

面白いところだ、なんて


リサは思う。




新しい友達の、優しい気持ちに


思い詰めてた心が、緩んだような

そんな気がする。




「リサちゃんも、試験、きっと大丈夫だよ。」と

スティーブが言うと

、フランクは



「あ、それ俺の台詞だって。

台本通りにしてよー」なんて言うので


みんな、笑った。



軽快な、フランクの雰囲気に


みんな、笑顔になった。





その後、フランクは





「めぐちゃんは図書館かー。カウンターに行くと会える?」と。





めぐは、ちょっと困った。



今、フランクが会ってるのは

タイムスリップしてる自分。




18歳の自分で




もし、図書館に行ったら、そこにいるのは

21歳の自分。




記憶に今日の事はあるだろうけれど。



覚えていなかったら


フランクの事を、デジャヴュみたいに


思うのだろうか??





21歳のあたしは、恋人がいるのだろうか?




もちろんそんな事を、言える訳もない(笑)




「はい、いますよー。」って


フランクの口調を真似て

おどけるだけだった。



ふたりの青年がいなくなってから、女子会の続き。



「おじいちゃんに、もう一度会えるといいのにね。」と

れーみぃが言う。



幻想的な意味で、と言う事ね。



「夢で会えるよ、きっと。」と、めぐ。


もちろん、めぐはその夜、魔法を掛けるつもりで。




「会えるかなぁ」と、リサは心なしか元気になって。




「うん、きっと。」と、めぐは真面目な顔になって。







ポリスマンカフェ(笑)は、結構ごはんも美味しいので

そこで、夕食を済ませて、女子会はお開き。


もちろん、ノンアルコールである(笑)。




Naomiは、TR1でお家に帰る。



めぐは、タイムスリップしてきたので

自分の家に帰ってしまうと、3年後の自分に出会ってしまう(笑)。



それはちょっとマズイ。


でも、女子会が盛り上がって、すこーし、リサも元気になってきて


「めぐ、ひさしぶりに泊まってく?」と



そういう話になった。





リサは、実家に住んでいるらしい。



電車の仕事は結構時間が不規則なので、身の回りの事とかを

自分でするひとり暮らしは、事実上無理。



そんな訳で、ハイスクールの頃と同じに

お父さん、お母さんと一緒に暮らしている。




そのあたりの事情はNaomiも、れーみぃも一緒らしくて。


公共の仕事って、どうしてもそういう傾向にあるらしい。



「福祉主義、って言うけれど、職員にも福祉してほしーわぁ」


なんて、みんな言ってて。

めぐはその点、恵まれてるなぁ、と思ったりもした。



図書館って時間は定まってるし。


でもまあ、日曜は休めないんだけど、たいてい。





リサのMiniCooperにふたり乗りして。


ちいさい車だけど、乗ると案外広い。




リサのおうちはハイスクールに近い。



何度か、お泊まりした事があるのでだいたい分かってるけど、でも

ちょっと心配なのは、お母さんがめぐを見て


「妙に若い」とか思わないかな?と言うあたりと



家に電話しないかな?なんてあたり。



でもまあ、その時はその時。

なんとかなるだろうと、めぐはのんき(w)。






夜、一緒にお風呂に入って。


めぐは、18才のまんま(笑)なので



「肌きれい。ティーンズで通用するわ」と、リサが言うけれど

そのままだもん(笑)と思うめぐ。




3年経つと、そんなに違うかなぁ、と思って

リサを見ると、別に変わってないように見える。



それより、オトナっぽくなってて。

そっちの方が気になる(笑)。



めぐの3年後は、どうなのか...見てみたい自分自身だったけど

まさか、自分の入浴シーンをのぞくのもヘンだし(笑)。






そんな訳で、おとなしくリサと一緒に、お部屋で眠る事にした。



もちろん、近くにいる方が、魔法を掛けるには便利なので。




リサが、夢を見て。

眠ってる時に、記憶細胞のどこかが電気的に動いてて

おじいちゃんの事を考えてれば。


夢の中にお邪魔して、その細胞に魔法を掛けてあげればいい。


めぐは、自身の夢を好きなように見る時


知らないうちに、そういう事をしていたから



それを、リサの気持になって。



してあげればいい、そう思った。





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