第351話 緒方駅
友里恵たちの乗った「あそ3号」は、快適な速度で
坂を下っていく。
録音の音声、にこやかな女の人の声で、アナウンス。
ーーまもなく、緒方、緒方ですーー。
結構、里に下りてきた。
友里恵は、「あ、綺麗な駅」と。
ガラス張りの、新しい駅。
右側の窓の方を見た。
「あ、バッタちゃん、いなくなってるね」と。菜由。
由香「ホントだ。飛んでいったのかなぁ?」
窓枠にくっついていたので。
ともちゃんは「羽があるから、飛んでいったんでしょうね」
と、にっこり。
さかまゆちゃん「いいお天気だし」
と、お空を見上げた。
気づくと、空は晴れていた。
山の天気は変わりやすい。豊肥本線は、山を越えて来るので
よく、こういう事がある。
パティは、ワゴン・サービスが一段落したようで
ワゴンを業務室に固定した。
グリーン車の隣。そこから直接、ホームに下ろせるようになっている。
レモンジュースを、6つ。
穴のあいた、カップ運びのお盆で。
「はい、どおぞ?」
友里恵「ありがとう。んー、おいしい。冷たくて、フレッシュ」
ウィンク☆。にこにこ。
愛紗は「氷、よく溶けないね」
パティは「冷蔵庫、あります。業務室に。」
と、にっこり。
菜由「ああ、そっか、そうだよね。それでないと。帰りもあるし。」
パティは「拠点駅で補充したりしますけど。アイスクリームもあるので」
友里恵「あ、アイス!いーなあ」
由香「腹こわすぞ、また」
友里恵「壊してないよーだ。食べたから、出ただけ」
由香「きたねーなぁ。アホ」
みんな、笑う。「ほんと、かわいい、友里恵。赤ちゃんみたい」と、パティはにこにこ。
友里恵をなでなで。
友里恵はにこにこ「えへ。赤ちゃんほしいなー」
由香「作れ」
菜由「アレシロの月か」
由香「面白い!君こそスターだ!」
と、指差して。
友里絵「お笑い、のね」
と。
パティもにこにこ。
菜由は「ついにお笑いになったか、あたし」
愛紗も、和んだ。くすり、と笑う。
列車のドア、折り戸がぱたり、と閉じて。
「あそ3号」は、発車する。
がらがらがら・・・・と、エンジンが床下で響いて。
これは、都会のほうではあんまりない感じだから
遠くへ来たなー、と友里恵は思っている。
帰りたくないなぁ、なんて思ったりもして。
ちょっと旅愁。
「でもさ、パティは大分なのに、ともちゃんたちとお友達になれて」と、友里恵。
パティは「ハイ。時々、熊本行きますから。車掌区で、なんとなく。」
さかまゆちゃん「パティ、かわいいもの。人気者ね」
パティは「えへへ」と、にっこり。
大柄で、ブロンド。青い瞳。
なんというか、友里恵と並んでいると
マトリョーシカのお人形みたい。大きさが。
ともちゃん「どこ行っても人気者だねー」
愛紗は「どのあたりまで行くの?」
パティは「はい、小倉ー宮崎ー熊本くらいです。たまーに久留米ー博多。
「ゆふいんの森」の時」と、思い出すように。
左手のひとさしゆびを立てて。
ともちゃんは「明日、乗るよ。ゆふいんの森」
パティは「あ、それで由布院泊まりなの」
さかまゆちゃんは「そう」と、にこにこ。
パティ「いいなぁ、ゆふいんの森」
友里絵「来るとき乗ったよ」
由香「そうそう、飛び乗ったんで・・・」
友里絵「だって、かっこいーもん」
ともちゃん「かっこいいですね、あの列車。色も綺麗だし」
さかまゆちゃん「ホント。」
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その頃・・・お兄ちゃんは
EF81-137で。24系25形、ブルー・トレイン編成を回送して。
そろそろ、熊本客車区の留置線に到着。
「はやぶさ」編成らしく、熊本区の車両。
いつもの貨物線とちょっと違うので、間違えないように・・・と。
入線するレール、そこの信号機を確認する。
「待7、進行!」
待機線、7番が進行である。
確認済みの番線である。
旅客線なので、清掃用に簡易ホームがついている。
乗り降りは楽。
流れるように、そのホームが近づいて。
ゆっくり、ゆっくり・・・・。
速度、20。
結構、押されると重い編成だ。
電気ブレーキ、そろそろ失効。
機械ブレーキを掛ける。
編成直通電磁弁で、1ノッチ。
機関車単弁は、開いたまま。
編成全体が、密着連結器なので
連結器ばねの間隙を開くように。
機関車と編成の間は、普通の自動連結器なので
間隙が大きい。
そこの間隙を無くすのが目的・・・。
編成にブレーキが掛かり、機関車が後ろに引かれるような感じになって
機関車単弁を掛け、停止。
停止位置、よし!
確認し、停止する。
「若干・・・早着かな」 そんなものだろうと思う。
ブレーキを非常位置にし、転動防止。
計器類確認。
ランプ類、異常なし。
鍵を抜き、携行品を持って、降りた。
この編成は留置のようだ。
機関区は隣なので・・・・少し歩いて。機関区に着く。
指令室に行き「35仕業、137列車日光、乗務中異状なし」と、終着点呼
機関区長は「ごくろうさん」と、にこにこ。
区長も、今朝から勤務である。
もうそろそろ、勤務終了だろう。
さあ、帰るかな・・・と、ホッとしたお兄ちゃん。
機関区長は「あ、日光ちゃん。」と、にこにこ。
お兄ちゃんは「何ですか?」
機関区長「特急組の予備、時々やってくれる?」
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まゆまゆちゃんは、もう熊本駅に着いていて
車掌区で中間点呼を受けた。
あとは、帰り・・・人吉までは回送扱いである。
これも勤務時間になるので、大体、住んでいるところの
区に所属する。
帰りも乗務があればいいが、普通列車に乗務しないまゆまゆは
帰りの列車が少なかった。
それで、昇任試験を受ける事を薦められる。
そうすれば、普通列車の車掌も出来るからだ。
でも、恵の言うように
普通列車に乗るようになると、結構トラブルもあったりするから
まだまだ、19歳のまゆまゆとしては・・・ちょっと心配なところ。
ガイド=>ドライバーになろうとしている愛紗とちょっと似ている。
「お父さんの言うように、お嫁さんに行った方がいいのかな」なんて
思ったりもする、まゆまゆちゃんだった(^^)。
もうじき、20歳の誕生日。
同じように、20歳の板倉裕子は、もう車掌である。
「偉いなぁ、裕子さん」と・・・。思った。
「お兄ちゃん、来るかなー。」と、思いながら。
機関区へ電話を掛けた。
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