第342話 パインアメ

「なにすんのって、オマエが当たってきたじゃん」と、由香。



友里絵「恋愛まんがじゃあるまいし」


由香「まー、恋愛マンガって言っても・・・アッチのな」



友里絵「TVアニメに出来ないほう」


由香「そうそう(^^)じゃない!さかまゆちゃんたちに挨拶して」


友里絵「いいよ、あたしがしたから、降りよ」


由香「そっか」



簡素な宮地駅のホームは、コンクリートそのまま。

側線は駅側に一本、反対側に数本。


ターンテーブルがひとつ。




友里絵はホームに下り「あ!あれかー。」


STEAM LOCOMOTIVE と、書いてあり、赤と緑にペイントされている。

丸く掘られた地面に、コンクリート打ち。

ガーダー鉄橋のようなものがあり、線路につながる。



「あれに、機関車を乗せるのかー。」と、友里絵。



降りてきた愛紗と菜由。「向こうに、公営住宅があるね。」



国鉄官舎かな、と思えたそれは、広い野原の中にぽつぽつ。



「こういうとこなら住みたいね」と、友里絵。



由香「うん・・・そうだけど。ここだと相当・・・台風の時に風吹きそう」



菜由「いいところに気が付くね。そう。」


友里絵「なるほど・・・・。」


愛紗「まあ、水浸しになるよりいいけど」



友里絵「さすがは地元だ」



そういうところでも生きているんだな、と・・・友里絵は思う。

大岡山は箱根の陰だし、富士山もあるので

台風が来たりすることは、そんなにない。


いくら台風と言っても、そこは低気圧である。

上昇気流なので、海面から遠くなる、標高が高くなると

温度が下がるので、上昇気流は弱まる。



九州の方は、東シナ海でたっぷり海水を吸っているので

上昇気流がまだ強いから、台風も強い。


その辺りは、九州に住んでいた愛紗や菜由は良く知っている。




島式のホームから、スロープで降りて

構内踏み切りを渡る。



豊肥本線は単線なので、レールが2条。

丘の上にある宮地駅から見ると、どちらも下り坂に見える。


熊本方面は、遥かに霞んで見える。

大分方面は、森の中にカーブして消えている。


友里絵は「広いねー。」と、掌をおでこにかざして。遠くを見る。



由香も「ホント。さっぱりしてるね」と、山の方を見て。



構内踏み切りは、コンクリートで固められていて

回りが黄色く塗られている。


「ま、落っこちる人はいないだろうけど・・・」と、菜由。


愛紗は「傘とか挟んで、取れなくなったりして」



友里絵は「抜けない、抜けない」と、腰をゆさゆさ。



由香「下品なギャグはよせ」と、張り扇チョーップ!(^^)。



友里絵「いたーい、なにすんのぉ」



由香「同じネタ使うな」


友里絵「うう、スランプじゃー」



ハハハ、と・・・駅の改札を抜けようとしたけれど

駅員さんがひっこんっじゃってたので、そのまま。


どうせ周遊券だから。



愛紗「途中下車印押すと、記念になるけど」



友里絵「ああ、さっき。阿蘇で押してもらったし・・・人吉とか、吉松とか」



由香「ああ、友里絵だけ吉松で降りたからな」


菜由「いーなぁ。記念スタンプ」


友里絵「へっへー。」



愛紗「旅行貯金もあったね」



由香「なにそれ」




愛紗「昔ね、郵便局の通帳が縦長の、緑のものだったころ。

旅先の郵便局で、貯金するとゴム印を押してもらえるの」



菜由「ああ、なんか見たことある。TVで」



愛紗「わたしは、旅先のATMで残高照会すると

レシートが出るから記念にしたり」




友里絵「面白いね」


由香「なんか、宝探しみたい」



と、駅の改札を抜けて・・・ひろーい待合室を通ると、駅前ロータリー。


階段じゃないけど、段差があって。




友里絵はコケる。


「いて」☆。



由香「ハハハ。大丈夫か」と、手を差し出す。



友里絵「だいじょびだいじょび」



菜由「痛くないか?」



愛紗「大丈夫、ホント?」



由香は「まあ、丈夫に出来てるから、コイツ」



友里絵「ハハハ・・・あ、リッチモンドってここか」


駅の直ぐ前、右手。



かわいいベーカリー。



由香「いろいろありそう」




おかずパンだけでなく、ふかふかのながーい食パンとか

イギリスパン。バゲット。チーズパン。

まんまるパン。


アンぱん。クリームパン。いろいろ。



美味しそうな香りが漂う。






その頃・・・・快速「いさぶろう・しんぺい」にCA乗務のまゆまゆ。


この列車は、どちらかと言うと観光ガイド業務が主体。


友里絵にしたように、記念乗車パネルを持って。


喜びそうなお客さんに、記念撮影を薦めたり。


用務客ばかりの日は、ふつうの快速なので

ウィークディの木曜、マイクの案内くらいのお仕事。


たまーに外国人が、英語ならまだしもドイツ語とか

ラテン語で聞いてくると、わかんなーい(^^)。



そういう事もあったりする。そういう時はポケット翻訳機(^^)。


聞いて喋ってくれる。便利便利。



ただ、日本語でも東北弁とかは、ほとんど外国語っぽいので

翻訳機もお手上げだったりする。


けど、東北の人は温かいので

トラブルになったりすることはなかった。



「んだね、熊”本さ、どっちいぐの?」と・・・か、聞かれる。



なんか、フランス語っぽい感じ・・と、まゆまゆは思う。



「人吉で、熊本行きは向かいのホームから出ます」と。


この日も。



のどかーな、感じの東北の言葉。笑顔のひとたち。



「どんなところなんでしょうね、東北って」


真由美ちゃんは、まだ、行った事は無い・・・・。





車掌さんが、マイクでご案内・・・・。



ーー間もなく、終点、人吉、人吉に着きますーーー。

この列車は折り返し、吉松ゆきになります、引き続いてのご乗車は出来ませんので

ご注意くださいーーー。




さっきの東北弁おばあちゃん「アレ?なんでいっだの?」

ちょっとおミミが遠いみたいなので、まゆまゆは



「次で降りないと、元へ戻っちゃいます」と、少し大きな声で。

おミミのそばで。



おばあちゃんは、にこにこ「ありがと、お嬢ちゃん。アメ、食べる?」



がさがさ・・・。


白い紙に包まれた、パインアメ(^^)。



「ハイ」と、おばあちゃん。



まゆまゆは「ありがとうございます」と、もう終点だからいいかな、と

ひとつ含んだ。



おばあちゃんはにこにこ「おいしい?」


まゆまゆは「ハイ」と、にこにこ・・・。



かたこん、かたこん・・・・。臙脂色の快速「いさぶろう・しんぺい」号は

短い鉄橋で球磨川を渡り、人吉駅に入った。

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