第142話 12D,庄内、定発!

友里絵は、一号車の先頭まで来て


伯母さんの姿を見つけた。


運転士と、何か話している。

連絡事項だろうか、それともなにげない話だろうか。


元々は運転士だった伯母さんの夫であるから

後輩なのかもしれない。


にこやかに話す伯母さん。



友里絵は、一号車の先頭、パノラマ・シートの手前まで来たけれど

窓の開いているところが無い。


それでも、手を振って。


さすがに、声はださないけれど。


伯母さんも気づいて、手を振った。


由香も、友里絵の後ろで手を振った。


パノラマ・シートに乗っていたのは、欧州の人のようで

ドイツ人のようながっちりとしたおじさん、金髪で四角い顔。

奥さんだろうか、のんびりとしたご夫人、にこにこ。


友里絵たちを見て、手招き。


シートから立って。



友里絵「え、いいの?お邪魔しマース、エクスキューズ」


由香は「英語通じるかい」



そのおじさんはにっこり「ドウゾ」


友里絵は「ドイツ語分かった!」



由香「日本語だよ今の」




ご婦人はにこにこ。

ふんわりとした笑顔。



パノラマ・シートでも窓は開かないけど。



そのうちに、対向列車が来て。



伯母さんは駅員の顔で、列車に注視。



普通列車の大分ゆき。


かたん、かたん・・・。と、軽快な音の黄色いディーゼル・カー。



Yellow One-man Diesel-Car と、書いてある。



離合。


下り出発信号が青になる。



「ゆふいんの森」は、進行。



運転士は、信号を指差す。「出発、進行!」


ブレーキ・ハンドルを緩める。


空気の抜ける音がして、編成全体のブレーキが緩む。


マスター・コントローラを開く。


編成の後ろの方から、ぐい、と押される感覚。


モーターとは違う、エンジンの鼓動が聞こえる。


低い唸り。



ゆっくり、ゆっくり、伯母さんの姿が流れて。



友里絵は「行ってきまーす」と、手を振って。


伯母さんも何か言っているけど、聞こえない。


由香も「ありがとうございます」と、礼をした。



ゆっくり、ゆっくり離れていくので、ちょっと淋しい。



友里絵は、後を追うようにパノラマ・シートから離れて、2号車のほうへ歩きながら

手を振って通路を歩いて。


由香は、パノラマ・シートのお二人に礼を述べて。


おふたりは、にこにこ。 「イイ、タビ、ヲ」


由香も、「おふたりも、良い旅をなさってください!」


と、言ってから友里絵の後を追った。


ディーゼルカーなので、加速はゆっくり。


「ゆふいんの森」は観光列車なので、特にゆっくり加速しているようでもあり。


運転士さんが友里絵たちに気遣ったのかも、しれない。



列車は跨線橋をくぐり、広い庄内駅場内をゆっくり、ゆっくり。



友里絵は、2号車から、3号車、4号車と、最後尾まで来て。


その頃になると速度も上がってきて。


庄内駅のホームの端で、手を振る伯母さんの姿が小さくみえて。



丘、果樹園、線路、昨日入ってきた温泉、川。対岸の畑。


ジオラマのように小さく見えた。




友里絵は、見えなくなるまで手を振って。


ちょっと涙ぐむ。


「なんか、淋しくなっちゃった」



隣に来た由香に、頭をくっつけて。



由香は「何言ってんだか。」と、


友里絵の頭をなでなで。





線路はカーブして、庄内駅から離れていく。



伯母さんは、駅のホームから「あー、行っちゃった。『ゆふいんの森』乗れたのね」


と、にこにこ。



駅の出札に戻る。



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