第141話 12D、小野屋通過!

久大本線は、向之原あたりから

山岳路線になって、坂が続く。


よく、秋になると落ち葉で滑って

旧式のディーゼルカーがダイヤより遅れる事がある。

山間なので、落葉も多いのだ。


木材を多く使った「ゆふいんの森」は、かなり重量があるようだが

エンジンが高出力なので、結構な速度で登って行く。


もとより、駅で止まらないので

勢いが付くと、重い分楽なのである。




小野屋、鬼瀬、天神山、と通過し


坂が少し緩くなると、庄内である。





友里絵たちは、4人掛けのボックスシートに掛けた。


日曜の帰り列車とは言え、まだ12時とあって


空席があったようだ。




「素敵なシートね」と、愛紗。


「ほんと、きれいー。」と、友里絵。窓際に座る。


「フロアも木だしねー。これ、傷むだろうなぁ」と、由香。



「おばさんっぽい」と、友里絵。



「うるさい」と、由香。友里絵の隣に。


「愛紗は窓際がいい?」と、菜由。



「菜由ちゃんどうぞ」と、」愛紗。



「そう、それじゃ」と。菜由。


友里絵は「あ、こっちに座れば、あいしゃ」と。



愛紗は「ううん、わたしはこっちの方が」



友里絵は「色白いからなー。日焼けするとね」と。

面白いことに気がつく。




由香は「気を使ってんのよ、ばか」と、友里絵をからかう。


友里絵は「あ、そっかー、ごめんねー、気をつかってくれて」



由香は「へんな言葉」と、笑う。



はは、と、友里絵も笑う。



ハイ・デッカーだから眺めもいい。


大分川沿いの席だから、広くなったり、狭くなったりする

曲がりくねった川が見える。


遠くなったり、近くなったり。


その間に、道路が挟まっているように。



列車が、庄内駅1番線に入る。




「伯母さん、いるかな」と、友里絵は窓から下をのぞく。


車両先頭の、運転台の辺りに立っているように見える。



このシートからは、よく見えない・・・ので。



「ちょっと、いってこよ!」友里絵は、通路に出て


とことこ、と駆け出して行った。



「しょーもないな、あいつ」と、由香も追いかけた。



愛紗と菜由は、おとなしくシートに座っている。


まあ、友里絵と由香のバッグが棚に載っているし(笑)。



「友里絵ちゃんたち、いいね、仲良くて」と、菜由。




「高校のクラスメートだもん」と、愛紗。



「高校の友達って一生みたいだね」と、菜由。



ほんと、と、愛紗も笑う。



「ゆふいんの森」は、ゆっくりゆっくり、停止する。


ディーゼルカーなので、そこだけはブレーキの軋み音がする。

電車の回生ブレーキのようには行かない。



窓の外を見る愛紗。


たぶん、と言うか

絶対、おばさんは列車先頭のところに居る筈である。



乗務員の連絡を受けるのも大切な仕事である。



今は委託駅員だから、その義務はないし

列車無線で事足りてしまうけれど。



一般駅だった頃から、この駅に駐在していたから。

習慣でそうしてしまうのである。



亡き夫を偲んでいるのかもしれない。




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