第143話 12D,南由布通過!

列車は、坂道を

のどかに登る。


観光列車だし、単線なので

そんなに急いでも無意味だ。


行き違いができる駅に早く着くだけである。



友里絵と、由香は

みんなのところに戻ってきて。


「あーおなか空いちゃたぁ」と、友里絵。


由香は「さっき泣いたかと思えば」と、笑う。



菜由は「なにかあったの?」


由香は「んにゃ、友里絵がね、伯母さんが遠くなっていくのを見て

おセンチになっちゃって。」




「センチメンタル・ジャーニーね」と、愛紗。



友里絵は「♪センチメートル・じゃーにぃ♪」と


「違うだろそれ、中卒女」と、笑う。



今は専門卒だってば、と、友里絵。



菜由は「一番高学歴だ」と、笑う。


友里絵は、へへー、と、楽しそう。





「お昼ごはん、まだだったね」と、菜由。



愛紗は「そうね。忘れてた」



列車は、湯平駅を通り過ぎてトンネルに入る。

単線トンネルなので、エンジンの音が響く。



トンネルを出ると、川に沿ってカーブした線路。


生コンクリート工場が、川の対岸にあったり。

狭い国道の向こう。





「この列車、食堂車はあったっけ」と、菜由。


愛紗は「ビュフェはあったと思ったけど、久留米までだと食べてる時間ないと思う」



由香は「そんなに直ぐ着くの?」



愛紗は「うん、あと一時間くらい」



「じゃ、お菓子でも食べてよか」と、菜由は

バッグからいろいろ。


クラッカー。青いセロハンに包まれた四角いそれは

どこか、外国のものらしい。


英語ではない文字が並んでいる。




チョコレート。大きな英語の文字が並んでいて。チョコレート色なのが

面白い。



「パンもあった」と、菜由は


大袋に入ったロールパンを出して。



「袋は捨てないでね」




友里絵が「どうするの?」



菜由は「うん、ミッフィーちゃんのバッグがもらえるの。21点集めると

みんなもらえる」と、にこにこ。


愛紗は「主婦になったね」と、にこにこ。




菜由は「うん、なんとなく・・・・」



由香は「幸せっていいね」



友里絵は、ロールパンを食べながら「あたしも結婚したいー。」




由香が「誰でもいいのか?」



友里絵は「まあ、そうはいかないよね」ハハハ、と笑った。



列車がカーブすると、ふんわりと揺れる。



川から少し離れ、景色が拓けてきて。

由布院盆地に入った。




ゆるーいカーブの途中、田んぼの中に

南由布駅。


「ゆふいんの森」は、通過だ。



お昼なので、長閑にお散歩をしているひとたち。


家族連れも、ちらほら。



右手の車窓には、セメント工場、製材所。



「工場があるね」と、由香。


「うん、さっきね、ヨーグルトン乳業ってあった。面白い名前」と、友里絵。



「クロレラの工場もあったね」と、愛紗。



菜由は「それ、大岡山のCOOPにもあった」と。



愛紗は「うん。懐かしかった、なんだか。」



すこし、速度を落として南由布駅を通過する「ゆふいんの森」



鉄道好きみたいな子が、線路沿いで手を振っていて。



友里絵も「おーい」と、手を振って。




列車は、道路の陸橋をくぐる。

ゆるーいスロープのようで、煉瓦が積んである。

ところどころ、汽車の煤がついているように黒くなっている。



ゆるーい大きなカーブの向こうに、由布岳が見えてくる。


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