第26話 滝

3人は「よかったねぇ」と言いながら

小川の畔を歩いて。


由香と友里絵は、これから明日乗る観光バスの

中のお掃除とか、痛まないものは

お菓子とか飲み物を積んだり。


愛紗は、研修の続きだけど

午後は何をするのか、誰が来るのか判らない。

森さんが来るのかも知れないし。



「やぁ」と、明るい声。

にこにこ笑顔の坊主頭の、30歳くらいか。


中型で路線を担当しているが、大岡山から東隣の三原周辺の

路線担当。滝修である。


深町の事を「兄貴」と言って親しくしていた。



「お疲れ様です」と、愛紗、由香、友里絵。


そんなに親しくないし、ちょっと色好みだという視線が

少し気になる若い女の子(笑)


まあ、実害はないのだけど。



「三原でね、新幹線側の駅、北口で見たっけ、たまちゃん。」と

滝。



友里絵は「ああ、滝さんだったんですか。逢ったの。」


滝は、制帽を坊主頭に乗せたまま。


「そう、なんだかねー。にこにこしてたっけ。

大学の仕事は上手く行ってるみたいね。

東大だってねー。びっくりだね。

ほんと、凄い人だったんだね。」と、滝はにこにこ。


愛紗は「驚きますね。」


普通、バスの運転手って学歴不問なので

あんまり知的職業とは関連が無かったりする。

ま、たまに世を拗ねたエンジニアとか、教師を

不祥事で首になった人とかは来るが。



滝は「うん、なんか医学部と?工学部と。ふたつ受け持ってるんだってさ。

先生みたいだね。」




友里絵は「そう、教えるの上手だから先生になればーって。あたしも。」


滝は、少しHな視線で「ナニを教わったの?」と、友里絵の

足とかを見たり。


友里絵は平然と「バイメタルの構造。」と。


そっか、ははは、と滝は

かわされたのでがっかり。(笑)。



まあ、滝は既婚だし、悪い奴ではないが

好色なのは仕方ない。


バスドライバー、そういう事をする時間もないのである。


それで、観光バスならガイドとドライバーがそっちの友達、なんてのも

割と、大人ならわかる感覚。


なので、営業部長の娘がガイドで、結構それで重宝がられていたので


それを深町の嫁、とされると若い女の子たちは浮き足立った、と言う訳。



やっぱ、仲間うちには幸せになって欲しいもの。




滝は「早稲田の仕事もしてたみたいね。」と。



由香は「たまちゃんはね、『人に優劣なんかない。向き不向きがあるだけだ』って。

学校がヘンなんだ、って言ってたね。実際、それで東大まで行けちゃうのってさ。

東大も凄いよね。平気で入れちゃうって事でしょ?」



滝は「平気で入れちゃうのね。」とにこにこ、いやらしい妄想(笑)



由香は「学校にね。」と。



滝は、つまらなそうに「あ、そっか。でも、戻ってこないね、あれだと。」




と、事務所の方にとことこ。


メッキの料金箱を提げているところをみると、A勤務らしい。


午後は別勤務か、観光バスか。


結構忙しいのだ。




「じゃね、後でメール」


「うん、がんばってー、研修」


「いこーね、旅行」


と、楽しく手を振って別れる。

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