第2話 生物的限界

愛紗は、折角来たかっこいい制服を

自分のロッカーに入れた。


先月までは、かわいいガイドの制服を

着ていて喜んでいた自分。


タータン柄のミディスカートに見えるのは

キュロット。


理由は簡単で。ハイデッカーの観光バスだと

二階に上がるとパンツが見えるから(笑)だった。


観光バスの外にいるお客からは丸見えで

それがサービスになってはいけない(?)と言う理由。


それと、薄いベージュのブラウスにスカイブルーのスカーフ、

薄いグレーのベストも、少し緩めのニットふうなのは

ブラが透けないような、そんな実利的配慮もある。


バスガイドって花形だけど、変な趣味の人も多い(笑)のは

事実だったから

そういう配慮は必要である。


その他、汚れても目立たない色とか、そんな理由もある。



もちろん、愛紗はバスガイドを引退した訳ではないから

もし、ドライバーが増えれば戻る事も有る。



そんなことは考えていないけど。


男のドライバーだって、人間だから。


朝早く、夜遅い仕事をわざわざ選ぶ人もいない。


それに、事故を起こせば場合によったら刑務所である。



不条理だが、そんなものだ。



そんな仕事をわざわざ選ぶ理由もない。


愛紗が聞いた話では、路線バスのドライバーが

駆け込み乗車のおばあちゃんに気づかず、中扉を閉じた。


不幸なことに、そのバスは扉の光センサーが無く

ステップの踏み込みスイッチだった。


それに、スイッチに隠しスイッチがついていて


満員時。ステップに人が立ったら

ドアが閉じなくなるので

安全装置をキャンセルする、そんな改造がされていた。



そういう事もあるのが、路線バスである。




光電管センサでないタイプのこのバスだと、ステップに足を乗せなければ

ドアが閉じる。


それで、おばあちゃんは上半身を挟まれたが

挟まれると停まる。


なので、怪我は無かったが。








そういう覚悟も必要。





つなぎ服に着替えた愛紗は、帽子を被って

軍手を嵌めた。




階下に降り、運転課の指令に挨拶。

指令は、この日は野田さんと言う

ちょっと目玉がぎょろっとした、しかし

温厚で人望の篤い人。



「うん。まあ、適当にな。」

ドライバー経験があるのが、指令。


若い女には無理だ。



そう、思ってもいたから


元々きつい乗務をさせるつもりもない。


女の子ダイヤ、と言って


緩い、楽な乗務をつないだものを作っていた。


バスの運転は、駅から駅の間を走る時など

折り返し時間を取って、駅での待ち時間を少なくしないと


大きなバスが駅前で邪魔になってしまう。

それで、10分くらいにすると


普通、路線は遅れるので

折り返しでバスを降りられない。


トイレ、なんて言っていられない(笑)


男はいい。我慢できなければ

仕方なく途中で降りて軽犯罪法違反、も出来るが


女はそうは行かないし、体の構造上我慢が聞かない。


バスガイドに循環器系の病気が多い理由は、水分を取らずに

乗務し、炎天下のガイドなんかをしたり、そんな理由もある。


ドライバーなら、そんな時事故を起こしても許されない。




それで、緩いダイヤにしてあるのが

東山急行の伝統。


鉄道会社だから、と言う理由もあった。

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