10話.[可愛い男の子で]

「水月さん!」

「わっ、ど、どうしたの?」


 お買い物から帰ってきて家の中に入ろうとしたのを止められてしまった。

 母は荷物を受け取って中へ、そちらを止めるようなことはなく。


「ほ、細谷先輩とキスをしたって本当ですかっ?」

「あ、うん、去年の秋にね」


 起きた瞬間に奪われたから不可抗力で片付けたことだった。

 でも、ああいうことを冗談でやるような子じゃないんだけどね、そんな感じでまだ疑問に思っていたりもする。


「したいですっ」

「え、まだお昼だよ?」

「したいですっ、文人や細谷先輩に負けていられませんからっ」


 そんな勝ち負けじゃないでしょ。

 それでも不安にさせたということだろうし、今回はこっちから軽くしておいた。

 そのまま抱きしめて「不安にならなくていいよ」と言って。

 離してもかちんこちんに固まったままだから顔の前で手を振ってみたらぎゅっと握られて。


「なんで水月さんからするんですかっ」

「え、したかったんだよね?」

「そうですよっ、したかったんですよっ、俺の方からしたかったんですっ」

「同じだよ、寧ろ私が勇気を出した1回目のやつなんだよ?」

「だ、騙されませんからねっ」


 ちょっと面倒くさいところがあるところも可愛かった。

 だからにししといつも帆波が浮かべるような笑みを浮かべ、手を引っ張って中へと可愛い男の子で彼氏を連れ込んだのだった。

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41作品目 Rinora @rianora_

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