08話.[そうなのかなあ]

「おはよう」

「おう」


 夏休みが終わって学校が始まる。

 今年の夏はまあアレなこともあったけど総合的に言えば楽しめた。

 帆波だけじゃない、文くんや啓くんもいてくれたわけだから。


「文くんもいちごジャム塗る?」

「いや、俺はバターがいいな」

「分かった」


 夏休み前と比べて変わったことがある。

 それは、


「おはようございます」

「おはよ」

「よう」


 啓くんがこうして毎朝家の前まで来てくれること。

 そんな子が私の彼氏だということ。

 そして、


「水月、今日はちょっと遅くなるかもしれないから先に飯を食べていてくれ」

「分かった」


 こうして文くんが呼び捨てするようになったということかな。

 なんかこうしてふたりと歩いていると自分がモテモテになったみたい。

 実際、好きでいてくれているわけだからそうなんだけどさ。


「あ、帆波だ」

「やーっはあ!」

「ぐえっ、いきなりだね……」

「お祭りの日から全く相手をしてくれていなかった罰だよ!」


 そんなことは一切ない。

 お祭りが終わってから1番一緒にいたのは彼女だ。

 啓くんや文くんと約束があるときでも唐突にやって来たのは彼女だし。

 とにかくそんな自由さを披露してくれていたのになにを言っているのか。


「知らないっ、ぷんぷんっ」

「許してよ、ほら行こ?」


 そんな感じで朝を過ごし。

 SHRが終わったら体育館に移動して意味があるのかは分からない始業式を終え。

 戻ったらいつもと変わらない今日からまた頑張れ的なことを聞き。


「水月ー!」

「待って」

「へぶっ、ど、どうしたの?」


 こんなお昼に終わるような日に帰りが遅くなるって怪しいぞ。

 朝は当たり前のように流してしまったけど、うん、やっぱり怪しい。


「帆波行こ」

「うん」


 啓くんと合流して事情を説明、3人で一緒に尾行することに。


「水月隊長、対象はどんどんと人気の少ない方に移動しています」

「怪しいわね、啓、あなたはどう思う?」

「そうですね、これは間違いなく水月隊長に振られたのが影響していると思います」


 やっぱりそうなのかなあ。

 あれからはあくまで普通を心がけた結果、姉弟として過ごせたと思う。

 けど、文くんからしたら死体に銃弾を打ち込むような行為だったのかなっていまさらながらに不安になって。


「なっ、あれは!?」

「猫、ですね」


 優しい手つきでその子を撫でている。

 まさかこれじゃないだろうと考えていたものの、1時間経過しても動くことはせず。


「あ、行ってしまいましたね」

「まあ、猫にだって予定はあるもの」


 啓くんはそのまま壁に背を預けて座った。

 そこからは本当にただただ時間の経過を待っているというか、そんな感じで。


「行ってくるわ」

「「分かりました」」


 ふざけるのはここまでにして、横に移動し座る。


「見ていたのは分かっていたぞ」

「あはは、ごめん」

「そんなにおかしいか? 遅くなるって言ったのは」

「普段なら気にならなかったけど今日はほら、お昼で終わりだったから」

「まあ、不自然だったよな」


 文くんは立ち上がると向こうに移動して啓くんを引っ張り出してきた。

 帆波はひとりになることが嫌だったのか同じように自分で移動してこちらに抱きついてくる。


「さ、4人で帰ろうぜ、これがいつものアレだろ」

「はは、そうだね」

「みんなが帰るなら私も帰るー」

「俺だって帰りますよ」


 4人で並ぶのはあれだからとふたりずつになった。

 それでも4人でお喋りをしながら中間地点に向かって歩いていた。


「あ、私はこっちだ」

「また明日からよろしくね」

「よろしくっ、ばいばい!」


 帆波が去り。

 次は啓くん、とはならずに付いてくるみたいだった。


「帰れよ、心配しなくてももうなにもしたりはしない」

「単純に水月さんといたいんだよ」

「まあ、それならしょうがないな」


 家に着いたら文くんはテーブルの方の椅子に座り、私たちはソファに座ることに。


「帆波って明るいよな、羨ましいよ」

「文人も明るくいればいいじゃん」

「俺が急にあんなキャラになったら周りが困惑するだろ」

「でも、告白してきた子は喜ぶかもよ」

「受け入れるわけないだろ、そんなにすぐには捨てられねえよ」


 告白されていたことなんて私は知らなかったんだけど……。

 こう考えよう、その子のことを考えて例え相手が姉でも言わなかったのだと。


「ナチュラルに煽るんじゃねえ、俺はいまでも水月が好きだぞ」

「無理だから、水月さんは俺の彼女なんだから」

「分かってんよ、だから勝手なことを言ってくれるな」

「ごめん、もう言わないよ」


 よかった、喧嘩になったりとかはしないで。

 ただ、文くんがそこでリビングから出ていってしまったからなんだかなあと。


「私が言うのもなんだけどさ、あんまり言わないであげてね」

「はい、すみません」


 本当にお前が言うなって話だけど一応姉として言っておいた。

 そういうことに関してはもう触れない方がいい。

 触れたところでどうにもならないのだから。


「あと……これからもよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 だからあくまで普通でいいのだ。

 そして、このままの状態であればそれが容易にできるような気がしたのだった。

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