第3週忌①



「。。。お姉ちゃん、ごめんね」



 妹は、大好きな姉にピッタリ寄り添いながら眼を閉じる。

 姉と同じく多量の睡眠導入剤を飲み、冷たくなってしまったその手を握りながら眼を閉じる。

 次に目を開くと、少女はまた見知らぬ門の前に立っていた。

 いや少女は、四宮七々実はこの場所を憶えて知っている。この場所にはこれで三度初めて訪れるわけだが、七々実はこの場所を知っている。。。


 2週忌目。七々実は他の2週忌いつもと同じく、直接の原因を排除した。つまりは太刀裂詩音を、した。


 1週目の記憶知識を頼りに初日の深夜、トイレの帰りに詩音が背を凭れるあの鉄柵の留め具を予め緩めておき、事故死に見せ掛けて未だ優しいお姉さんであった彼女を排除することには成功したのだが。。。。。20%。

 コレはこの最も安直な方法で、これまでに姉が救われた実績の数値である。決して高いとは言えないが5回に1回は、そう思えば試してみる価値は大いにある。あれ程痛く苦しい想いを経験するのだ、それは少ないに越した事は無い。だが今回も運命を換えるという難事は、そう容易くはいかなかった。。。



 2週忌目の翌朝。ただの親友以上の関係にある、太刀裂詩音の死を報された四宮香澄の錯乱は想定以上で、日毎急速にに衰弱していった彼女は5日目の深夜。監視看病に疲れ、傍らで寝落ちてしまった七々実に毛布を掛けると、ただ一言『ごめんね』と書き置きを残し自らの命を絶ってしまった。


 タイムパラドックス。。。そうも呼ばれる歴史過去への介入に因り生じる矛盾。そこには必ず目には見えない何かしらの強力な修正力が働く。

 今回に関して言えば、詩音を排除したことにより本来七日目に起こるはずの確定事項香澄の死が自死という形で2日前倒されたわけだ。

 したがって、太刀裂詩音直接的原因の排除という選択肢で失敗した3週目これからは、その修正力見えざるモノとの闘いとなる。。。つまりは繰り返される歴史、既に確定された未来の帰結を変えなければならない。




「。。。さん、お姉さん。。詩音お姉さん」


「。。。ぅん?ななみちゃん、今日もなの?」


「ごめん、なさぃ。。。」


「まったく、本当仕方ないわね。。。ほら、さっさと行くよ」




 あれから詩音とのトイレイベントは毎夜の日課と化し、3週目は既に5日目の深夜まで限られた時間は浪費されてしまっていた。。。にも関わらず、当の七々実に焦りの色は未だ無い。

 2週忌これまでとは違い、暗い夜の廊下で手も繋いでくれず、喋りもせず、日常で偶に見せる笑顔すら、既に引き攣るまでに激しさを増した詩音の。。。しかしその直ぐ側に在っても、幼い小さな妹はまったく動じてなどいない。




「詩音お姉さん。。。?」


「なに」


「あのね。。。七々実もう一度だけお星様、観に行きたい。。。。。」


「えぇ。。。私、眠いんだけど」


「お願い。。。七々実、詩音お姉さんに大事なお話が、あるの。。。」


「。。。チッ、分かったわよ」




 舌打ちを隠さぬまで高まった詩音のヘイト。それは最早、下手を打てば直ぐにでも暴発しかねないレベルにまで達している。




「。。。」


「。。。で、話って?」


「あの。。。詩音お姉さんは、お姉ちゃんの事。。。。。好き?」


「は!?な、なんでアンタにそんなこと言わなくちゃ」


「お姉ちゃんは!。。。お姉ちゃんは、私よりも詩音お姉さんのことが好きだって。。。そうハッキリ言いました。

 詩音お姉さんは、お姉ちゃんの事をどう思ってるの。。。?

 お姉さんは!私のお姉ちゃんの事が好きなの?正直に答えて!!!」


「。。。。。。。。好きょ」


「どれくらい?」


「は!?どれくらいって、」


「私は自分が死んでお姉ちゃんの事を守れるのなら、どんなに痛くて苦しくても笑顔で死ねる。。。詩音お姉さんもそれくらい私のお姉ちゃんが好きですか!!!?」


「。。。。。あぁもう、好きよ!

 私だって自分が死のうが、世界中の人間が全部敵になろうが、そんなのどうでもいい!私は香澄が大好き!香澄の為ならなんだって出来るし、躊躇いも無い!心の底からスッゴくスゴく愛してるわよ!!!!!

 ハァ、ハァ、ハァ。。。で、だから何なの?文句でもある訳?」




 10歳の少女とはとても思えない迫力に気圧され、詩音は思いの丈を吐き出した。嫉妬に燃えるその眼には薄っすらと涙が浮かび、噛み締める唇は微かに震えている。


 『香澄の妹だから。。。』


 そう無理矢理に自分を抑え付けていた理性という名の鎖は今にも千切れ掛け、ゆっくりと背後に廻る彼女の右手は、一週目を終わらせた禍々しい狂刃を解き放とうとしている。





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