南麟帝本紀 第2章 8

パンディラ暦一二五年 大晦日(承前)


 初めて成年部に出場する者たちの中で、セルディの剣技は抜きん出ていた。それでも三回戦の槍使いには勝手をつかむまでは攻められっぱなしであったが、辛勝した。続く準々決勝戦でも苦戦を強いられたがキャラ命名<閃光の秘剣>を繰り出して逆転勝ちをおさめた。

 しかし、さすがに第二騎士団の団長に勝つことは叶わなかった。準決勝戦敗退という結果だったが、わずか十五歳としては記録的な成績である。

 御前試合の優勝者は近衛騎士団の団長で、その結果に直接の上司である国王も満足げであった。しかし、その団長も、アレクシスには五分と保たなかった。

「あ、<閃光の秘剣>!」キャラが、そして別席で観ていたセルディが驚いたことに、アレクシスの最後の一振りは、すさまじい剣速を備えていたのだ。

「もしかして、セルディより速いんじゃない……?」

 戦った相手の良いと思えるところは積極的に取り入れ、しかも原型を超えてゆく。アレクシスの強さの理由はそこにあったが、誰もが真似できるものではない。

「おれももっと速くできるはずだ!」準決勝戦で敗退してしまい、軽く落ち込んでいたセルディだったが、新たな闘志が湧き上がってきたようだった。


「いつまでぶーたれてんのよ!?」

「別にぶーたれてなんていません!」

「奨励賞を貰えたんだから、良しとしなさい。それも最年少記録らしいじゃない」

 表彰台には登れなかったものの、セルディは奨励賞を受賞していた。サン・クラリス家の観覧席に戻る途中で、セルディは通路の端から空を眺めていた。その姿を見つけて、キャラは声を掛けたのだった。

「ほら、行くわよ」

「え、どこにですか」

メルリース公家うちの観覧席に決まっているじゃない。あなたは私の専任衛士なのよ」

「ですが、今日は――」とセルディはキャラの傍らに立つ男を見遣る。

 レイシス・ディル・エスクード子爵は、今日一日、御前試合に出場するセルディの代わりにキャラの衛士を務めていた。

「実はな、うちの団で火急の用件ができたとかでな、おれは行かなきゃならんから、すまないが後を頼む」セルディより10歳ほど年上の男はそう云うと片目をつむって見せた。

「まったく、衛士の任をなんだと思っているのかしらね」

「まあまあ、ちょうど御前試合も終わったことですし。では、私はこれで失礼いたします!」

「はい、ご苦労様。明日もよろしくね。じゃ、セルディ、行くわよ」

「では、おれ――いや、私は合格と云うことで?」

「んー、何の話?」

「――いや、何でもないです。では、参りましょう」

「見てるだけで、お腹がすいてしまったわ。晩餐会は何刻なんどきからだっけ?」

 なんとなく機嫌が良さそうなキャラに従って、セルディはメルリース公家の観覧席へと歩んだ。


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