第45話
平日の昼下がり。
直射日光がジリジリとアスファルトを照らす炎天下の中で、晴那はひまりと並んで歩いていた。
お互いの手には一つずつエコバッグが握られており、中には野菜や肉など、今晩の料理に使用する材料が入っている。
晴那が母親におつかいとして頼まれたものなのだが、自分も手伝うとひまりが名乗り出たために一緒にいくことになったのだ。
「暑すぎる……」
額から汗を流しながら、ちらりと隣にいるひまりを盗み見る。
小森先輩と付き合っているのかどうか、臆病な晴那は未だに聞けずにいるのだ。
本当は気になって仕方がないくせに、頷かれてしまった時のことを想像すると、聞くに聞けずにいる。
一度コンビニに立ち寄れば、冷房の涼しさが火照った体に染み渡る。
余ったお釣りでアイスを買ってきて良いと言われていたため、2人とも片手で食べられる棒アイスを購入していた。
再び灼熱地獄のような暑さに晒されるが、アイスがある分先ほどよりはマシなような気がしてしまう。
「シマのお母さんとお父さんって、本当優しいよね。料理も美味しいし」
「うん、優しい」
「……最近、夜ご飯食べるのが楽しみなんだ」
アイスを舐めながら、ひまりは嬉しそうに言葉を漏らしていた。
「ご飯食べるのは作業って感じだったのに…シマの家で食べさせてもらうようになってから、毎日楽しみで……ありがとう」
あの広い家で、いつも一人ぼっちで食べていたひまりにとっての心の拠り所が出来て良かったと思う。
溶けてくるアイスをいつもより早いペースで頬張りながら、やはり気になるのは小森先輩のことだった。
「あのさ、ひまり」
「なに?」
まつ毛がふさふさで、ピンク色のアイシャドウが良く似合っている彼女の瞳。
身長差があるために下から見上げながら、堪らなく愛おしさがこみ上げてくる。
好きだからこそ、いざ彼女を前にすると、一番伝えたいことを隠し込んでしまうのだ。
何も言わない晴那に、ひまりは不思議そうに首を傾げていた。
まだ、この関係を壊したくないからこそ、自分の気持ちを蔑ろにしてしまうのだ。
「……いつでもご飯、食べにきて」
もし、告白をすれば、ひまりは間違いなく晴那を振るだろう。
そうすれば気まずくなって、晴那の家にも来づらくなってしまうことは目に見えていた。
ようやく出来た、ひまりにとっての心のよりどころ。
それを奪い取る度胸は、臆病な晴那は持ち合わせていないのだ。
だから仕方ないと、それをまた理由にしてしまう自分が、酷くずるいと思ってしまっていた。
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