第35話
まかないである沖縄そばを啜りながら、晴那は内心昨夜に食べたボンゴレパスタが忘れられずにいた。
両親が沖縄出身でおまけに料理店を営んでいるということもあり、幼い頃から食卓に出るのは沖縄料理ばかりだったため、あのメニューは割と衝撃的だったのだ。
家で出てくるパスタといえばナポリタンくらいで、正直由羅のことを羨ましいと思ってしまっていた。
早めに食べ終わってから、スマートホンを弄っていれば休憩室の扉が開く。
同じく沖縄そばの丼を抱えた、由羅の姿がそこにはあった。
「おつかれ、晴那ちゃんも休憩だったんだ」
今日はシフトの人数の割にお客さんの入りがいまいちだったため、2人同時に休憩を出しているのだ。
晴那の向かいの席に腰をかけて、由羅がそばを食べ始める。
口元を押さえながら、彼女は申し訳なさそうな声を上げた。
「晴那ちゃん、この前はごめんね。ひまりとの喧嘩でみっともないところ見せちゃって…」
その姿は、昨日ひまりと言い争いをしていた時の面影をちっとも感じられない。
やはり、彼女が感情をむき出しにするのは妹の前だけなのだろう。
「いえ、全然…」
「私とあの子、離婚前からあんまり仲良くなかったからさ…」
確かに、以前から由羅はひまりと馬が合わないと言っていた。
一緒に暮らしていた時から不仲なのであれば、離婚をして離れ離れになって、更に歯車が掛かってしまったと言われれば納得がいく。
「まあ、離婚して離れ離れになっても…暫くはちょくちょくうちにも来てくれてたんだけどさ」
「……じゃあどうして、ひまりはお母さんと5年も会ってなかったんですか?」
触れられたくなかったのは、由羅は珍しく目線をウロウロと彷徨わせていた。
思い詰めたような表情を浮かべてから、決心したのかポツリと彼女の声が続いた。
「……ひまりから話されるよりはマシか」
由羅の言葉に、ジッと耳を傾ける。姉妹の間に何があったのか、晴那も知りたいのだ。
「私が昔付き合ってた子が、ひまりの友達だったの」
「え……」
「中学2年生の時だから、ひまりは1年生かな…もう離婚してて学校は別だったんだけど、その子は小学校まではひまりと一緒で、私が通う中学校に入学してきたの」
過去を懐かしむかのように、由羅はどこか遠くを見つめていた。視線は晴那の方を向いているのに、どこか目線が合わずにいる。
「それで、その子と家でいい感じになってたら…ちょうど来てたひまりに見られちゃって。それから、あの子は一度もうちに来てくれなくなったの」
兄弟がいないため想像でしかないが、その気まずい状況は十分に伝わってきた。
相手が自分の友人となれば、より一層居心地を悪く感じて、避けてしまうひまりの気持ちも分かるような気がする。
しかし、それが5年も会わない理由にはなるだろうか。
心の奥底から、違和感が生まれ始める。
あくまで晴那の勘でしかないが、他に何か理由があるのではないかと勘繰ってしまうのだ。
「あれ…」
友達なら、どうでもいい。だけど、もしその相手が自分の好きな人であったら話は別だろう。
以前、ひまりはずっと初恋の人を忘れられないと言っていた。
晴那の予想でしかないけれど、もしそれが本当なら全て辻褄が合う。
あの姉妹の確執の本質に、晴那はようやく触れたような気がしていた。
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