第30話
およそ1週間ぶりの制服に腕を通して、いつも通りひまりと一緒に学校へ向かう。
休み明けの車内はどんよりしているが、晴那はどこか吹っ切れたような気がしていた。
色々とあったが、なんだかんだ楽しい休みだった。
そう思えるだけで、休み前よりも成長したような気がしてしまうのだ。
ひまりと共に教室に入っても、クラスメイトが好奇心で視線を寄越すことはなくなっていた。
教室では相変わらずあまり話さないが、登校が一緒なのはクラスメイトにとって当たり前の光景になったのかもしれない。
今日は珍しく朝ごはんを食べ損ねてしまったため、1人で席について購入した焼きそばパンを頬張っていた。
後ろの方では相変わらず、ひまりは慕われている生徒たちによって囲まれていた。
「ひまりちゃん日焼けした?」
「うん、沖縄行ってたから」
「いいなあ、家族と?」
「シマと」
人気者集団の驚いたような視線が一斉にこちらに注がれているのが分かる。
まさか一緒に旅行に行くほど仲が良いとは思いもしなかったのだろう。
クラスメイトとだいぶ打ち明けたとはいえ、ひまりの取り巻き達とはまだあまり話せていない。
決して悪い人でないことは分かっているのだが、派手な雰囲気に萎縮してしまうのだ。
季節は5月を迎えたこともあり、以前よりもさらに外の空気は暖かい。
日差しも強すぎず、弱すぎない気候で、外で食事を取るには丁度いいだろう。
中休みを告げる合図と共に校舎裏へ急げば、やはりそこには由羅の姿があった。
「晴那ちゃん、ひさしぶりだね」
ゴールデンウィークに入ってからは由羅と会えていなかったため、恐らく1週間ぶり程だろうか。
久しぶりに会っても彼女の美貌は健在だった。
定位置である壁際に背中を預けて座り込めば、隣にいる由羅が「なんか、良い香りする」と声を上げる。
「本当ですか?」
「なんだろう…」
「もしかして、髪ですかね」
そっと、彼女の繊細な指が晴那の髪を持つ。顔を近づけてから、スンと香りを嗅いでいた。
「これだ」
香りの正体が分かって、由羅が弾んだ声を上げた時だった。
突如第三者の声がその場に響き、2人とも驚いたように顔を上げる。
「やっぱりね」
その声は、ゴールデンウィークに何度も聞いた彼女のものだった。
どうしてここにいるのかと、困惑した瞳を彼女に向けてしまう。
「ひ、ひまり…」
「あのメイクとセンスのないワンピース…絶対に由羅姉の趣味だと思った」
予想通りと言わんばかりに、ひまりは腕を組んでこちらを見下ろしている。
いつもより鋭い視線は、晴那ではなくて隣にいる由羅に向けられたものだった。
ちらりと由羅を見やれば、今まで見た事がないような険しい顔をしている。
2人は姉妹だけれど、決して仲良くはなくて、どちらかと言えば険悪だと聞かされていた。
まるで修羅場のような状況に、焦りと共に居心地の悪さを感じてしまっていた。
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