学校夜廻り (中編)


◇◆◇




 ―――殺される。


 見つかってはいけない。

 見つかったら、殺されてしまう。

 


 花守香菜は、教室の中の教卓の後ろにぴたりと身を寄せていた。

 部活では背の高い友人のことを何度もうらやんできたが、今ばかりは自分の小柄な体形に感謝している。

 身を縮こめ、息をひそめる。

 だが、どんなに口をおさえても、呼吸はどんどん早くなる。

 心臓が、今にも口から飛び出そうだ。

 全身から冷たい汗が噴き出ていた。



 そもそも、どうして自分がこんな目に合わなければならないのだ。

 ただ、肝試しをしていただけなのに。

 冗談半分で七不思議を試してみたりはした。

 だけど。

 そうだけど。

 七不思議なんて、ただの噂じゃないのか。

 どうして、こんなことになってしまったんだ。

 こんなの知らない。

 こんなの、知りたくもなかったのに。

 


 ペタリ、ペタリとはだしで歩く音に続き、ズルズルと何かを引きずる音が聞こえてくる。 

 廊下にいる。

 自分のいるところに近い。近づいてきている。

 口の中で、ひっと息を飲む。喉がひきつる。


 怖い。

 怖い。

 怖い。


 呼吸をすることすら、恐怖で忘れてしまう。

 薄暗い教室、そして、誰も味方がいないという静けさに、押しつぶされそうだ。

 

 来る。

 あの子が、来る。


 来ないで。

 入ってこないで。


 捕まってはいけない。

 捕まったら、死ぬ。

 

 誰か、助けて。

 



◇◆◇



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