妖魔抗争 6
◇◆◇
自分は滑稽なほど不器用なヤツなのだと改めて思う。
昔からそうだった。
カリスマ性にあふれ、ひとを自然に引き付けて引っ張っていく、まるで太陽のような父に対し、自分は地味なくらい物静かだった。穏やかな性格なんだと言えば聞こえはいいが、裏を返せばつまらない男なのである。そんなだから、よく部下からは「言葉が足りない」だの「何を考えているのかわからない」だの言われてしまう。
それは最愛の妻が亡くなってしまったときもそうだった。
心では、ひどく悲しんでいた。己の身体の半分を引き裂かれたような痛みを感じた。
神巫であった彼女が、己の力に飲まれてしまったのは運命といえば運命なのかもしれない。だとしたら、その運命を心の底から憎んだ。なぜ彼女を奪うのだと、やりきれない怒りをぶつけたかった。
なのに、それなのに。
ただ自分は悲しみにこらえることしかできない。
たったひとりの息子に、愁に、慰めの言葉すらかけてやれなかった。
そして今も。
自分は憎むべき相手が現れてなお、たった一言だけしかぶつける言葉が思いつかなかった。
「死ね。」
言うと同時に、羅刹の指先に雷電を帯びた鉄の塊が出現した。
宙に浮かんだ鉛玉は、バチバチと放電を放ちながら急旋回し、弾丸のようにクロをめがけて発される。
「っ!」
まさに間一髪。
目視してからでは決して間に合わない速度。
直観に従って転移をしていなければ、確実にあの弾丸はクロの心臓を貫いてたことだろう。
クロは小さく舌打ちをうつ。
「やはり、妖力を二つ持っていたか・・・。」
クロの指摘は正しい。
酒呑童子の“雷”と茨木童子の“金属操作”の妖力系統。その二人の息子である羅刹は、その二つ両方を先天的に引き継いでいた。
無論、彼はその両方の術を同時に発動できる。
彼の術の仕組みはいたってシンプルな物理法則から成り立っている。
妖力によって生成された物体を
その速度はおよそ時速70000㎞。すなわち、マッハ6。
人の手によってもレールガンの開発は進んでいる。しかし、多大な電力を要求する点や十分な加速距離を確保するための物理的・技術規約などの欠点がある。
だが、妖術とはそもそも自然に干渉し、法則を捻じ曲げる。
ただ能力さえあれば、その壁は超えられる。物理的な限界というものはないに等しい。
とはいえ、ただできるだけでは意味がない。羅刹の膨大な妖力量と緻密なコントロール。それらがあってこそ、彼の術の真価は発揮される。
羅刹の羅刹の周囲を取り囲むように次々と弾丸が出現する。
弾丸といっても、それはもはや弾丸とは呼べない。ロケット弾なみの大きさの鉄塊が、一斉に射出される。
「逃がすか。」
ミサイルの雨がクロに向かって降り注いだ。
戦場と見まがう光景がそこにあった。
とまることのないミサイル放射の雨の中、それでもクロはしぶとく瞬間転移によって攻撃をよけ続けていた。
だが、それでも限界はくるものである。
徐々に転移する速度が追い付かなくなっているのは明白だった。
それを見逃すことなく、羅刹は弾幕を張り続ける。
「無駄だよ。」
バキンと折れる音がして、砲丸が崩れる。
クロの妖術無効化の結界だ。
「いやあ、正直言って舐めていたよ。あの酒吞童子と茨木童子の息子だ、さすがにそう簡単にはやられてくれないか。」
クロは笑っているようだった。
口を開くだけで腹が立った。
相手が自分を挑発していることぐらいは分かる。煽って冷静な判断力を失わせようとしているのだろう。
だが、それ以前に羅刹の理性はとっくに憎しみと怒りによって吹き飛んでいた。
「地獄に落ちろ、糞野郎。」
羅刹が再び弾丸を生成する。
しかし、クロが慌てる様子はない。
「だからね、少し私も本気で相手しないとならないようだ。」
その時、地面が揺れた。
否、そこは地面ではない。彼らはもともと怪物の上で戦っている。
檮杌が動き出したのだ。
「式神は知ってるよね?私がコレを復活させたことは分かっているようだけど、もう一つだけ、いいことを教えてあげよう。」
檮杌がおおんという、神経をかき乱すような声をあげる。音波攻撃のような雄たけびに、ほんのわずかに羅刹が気を取られた。
その瞬間、彼の横から黒い光線が襲い掛かる。
羅刹は咄嗟に転がってよける。
光線は羅刹の頬をかすめて遠くの海へと吸い込まれた。そして、一拍おくれて、背後で爆音が響いた。
爆風を背に浴びながら、羅刹は振り返る。そして、目を疑った。
海上には、巨大なクレーターができていた。
水の上に、である。光線が当たった箇所の周囲の海水が瞬間的に蒸発したのだ。それも、目にわかるほどの量が。
羅刹は再び目をクロに投じる。
彼の周囲には、まるで黒い物体がいくつも浮遊している。それはまるで、黒い雪のよう。
空に浮かんだ
「
本当の意味で、怪物が目覚めた習慣である。
「くそったれが・・・!」
「さあ、仕切り直しだ。」
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