妖魔抗争 4
◇◆◇
間もなく太陽が顔を現わさんという
朝日を
羅刹は豊前坊の腕に捕まって、その様子を上空から観察する。
「あれか・・・。」
大海原から見えている部分だけでもおおよそ数十メートル以上もある。
頭と思われる部分の中心にはぎらぎらと鈍く双眸。顔の横まで裂けた口には、巨大な牙が並んでいる。
見ただけで恐怖を掻き立てるような、外見をしている。
今は向こうがまだこちらのことを認識していないようだから攻撃を受けてはいないが、戦闘能力は見て推し量るべしだ。万が一この怪物が街に上陸した場合、確実に壊滅することは容易く想像できる。
(あれをたったひとりで海に沈めたというのだから、あのひとも大概怪物のようなものだ。)
そんなことを本人に言っても、きっとうまくはぐらかされてしまうだけなのであろうが、思うことは勝手である。羅刹の目から見ても、三大妖怪・鞍馬の烏天狗は酒吞童子と並ぶだけの戦闘能力を持つバケモノなのだ。
八百年前の話を今うだうだ考えていても仕方がない。今回は、自分がやらなくてはならない。
「豊前坊、
「おうよ!」
羅刹の言葉に応えて、豊前坊が怪物の頭上めがけて急降下する。
ちょうど怪物の視界から抜けたあたりで羅刹は手を離し、すらりと刀を抜く。
雷術―――雷獣の天翔
しかし、空を切り裂く雷撃が怪物に落ちることはなかった。
怪物の頭上の一点に、まるで吸収されるように消滅してしまったのである。
(どういうことだ?)
羅刹が術の発動に失敗したわけでは決してない。
もう一度、羅刹は刀を振り上げる。
だが、その時だった。
「お前に邪魔されるわけにはいかない。」
男が気配もなく、羅刹の懐に迫ってきた。
「ちぃっ!」
羅刹は紙一重で刀を男と自分の間に滑りこませる。
空中で身をよじって刀を振るうと、男はひらりとそれをかわし、そのまま足から着地して羅刹と対峙した。
「羅刹!」
「問題ない。」
羅刹の異変に気が付いた豊前坊が文字通り飛んで駆け付ける。そして、傷一つつけずに着地した羅刹を見て、安堵の表情を浮かべた。だが、負傷していないのは相手も同じである。すぐに豊前坊は表情を引き締め、腰に差していた刀を抜いた。
奇襲をまともに受けてしまったが、二対一でまだこちらが優勢だ。羅刹は刀を下段に構えながら、じっと正面の敵を見据える。
仕掛けてきた相手は全身が黒づくめの男だった。黒袴に黒い着物、頭まで黒い頭巾で覆っている。
(コイツ、人間か。)
生活上何かと動きやすいため、変化の術の使える妖怪の多くは人の姿をとる。しかし、化けていても妖怪か人間かは幻術によって認識阻害を受けない限り判別は容易い。
羅刹と相まみえるこの男は、紛れもない人間である。羅刹は現在妖怪としての本性を現している。その姿が見えるということは、相手は陰陽師の者だろうか。いずれにせよ羅刹のことを四大妖怪だと分かっている上で襲ってきたということは、相当の馬鹿かよほど腕に自信のある者である。陰陽師であった場合、後者の可能性が高いが、陰陽寮が自分と対立する意味がないし、そもそもどちらも何も得しない。となると考えられるのは野良の祓い屋か退魔師だ。政治権力を嫌って陰陽寮の統制下に入らない実力者はいることにはいる。しかし数は非常に少なく、見た目や特徴なんかは妖怪間で共有されている。羅刹もある程度は把握しているが、なにせ当の本人が顔を隠していまっているため判断ができない。
羅刹は相手の素性を探ることをあきらめ、戦闘に集中する。相手が人間とはいえ、油断は禁物である。相手が陰陽術を使えると非常に厄介である。ここは豊前坊と連携をとって確実に相手を叩き潰すまでだ。
羅刹は目で豊前坊に合図をする。即座に豊前坊が前に出る。
その時、黒い男が静かな声で、一言発した。
「
その言葉を合図にして、豊前坊に青い炎が襲いかかった。豊前坊は咄嗟に身を翻してよけるが、何者かによって背後から蹴り落される。
「がっ!?」
「豊前坊!?」
「俺のことは気にするな!」
豊前坊がそう言いきらないうちに、向こうで別の戦闘が始まった。
豊前坊に襲いかかったのは、黒い狐の面をした青年だった。その腰には五本の青い炎を纏った尾が生えている。どうやら、妖狐であるらしい。
何もないところから出現したということは、考えられる動作はひとつ。
(転移か・・・!)
陰陽師の中には転移術が使える者がいる。ただし、空間系統の術は高度な座標演算や空間把握能力を必要とするため扱いが難しい。そのため、血統による術式の継承出ない限り、ほとんど使える者はいない。
それは妖怪とて同じである。代表的な例が西の地の隠神刑部率いる化狸衆で、空間系統の妖力を代々引き継いでいる。
ただし、人間と妖怪の間で確固たる違いがあるとすれば、妖怪は例外を除いて使える妖力が一つに限られているのに対し、人間の場合は本人が術を習得さえすればどの系統の術でも使えることだ。無論、術との相性や霊力量の問題はあるが、本人の
そうしたことから鑑みるに、妖狐の青年が転移術を発動させたとは考えにくく、人間の男の方の術である可能性が高い。つまり、それは黒づくめの男が最低でも空間系統の陰陽術が扱えるほどの能力の持ち主であるということを意味する。
「お前、何者だ。」
刀を構えたまま、羅刹が問う。
男がゆったりとした動作で羅刹を見据える。
「初めまして、修羅童子殿。私はクロという。」
顔のわからないその男は、笑ったように見えた。
「早速だが、死んでもらいたい。」
◇◆◇
元寇―――日本の鎌倉時代中期に、当時モンゴル高原及び中国大陸を中心領域として東アジアと北アジアを支配していたモンゴル帝国・元およびその属国である高麗によって2度にわたり行われた対日本侵攻の呼称である。御家人の指揮のもと日本軍は応戦したが、蒙古の火薬兵器などに大いに苦戦をしいられた。その恐怖は名前を持ち、“モクリコクリ”、あるいは“ムクリコクリ”というバケモノの呼び名として泣く子を脅すことに使われていたという。恐怖そのものが、人々の間でバケモノというカタチをなして八百年の歳月を経た今でもなお残り続けているのである。まるで仮想怨霊を想起させるようなバケモノだ。
しかし、仮想怨霊と決定的に異なるのは、モクリコクリは“名”だけの存在ではないということである。
その正体は
そして、今―――過去にこの国を襲った大災が、再び蘇ったのだ。
「うん。最悪の事態だねー。」
筑後組とレジスタンスの抗争はほぼ鎮圧されていた。しかし、烏天狗によってもたらされた情報を聞いてある者は拳を地面に打ち込み、ある者は絶望の表情を浮かべる。
一難去ったにも関わらず、突然崖から突き落とされたような気分である。
頭はひどく状況を冷静に分析し続けているのに、感情はおいてかれている。いなりはそんな自分自身に驚いていた。動揺が激しすぎて、一周まわって落ち着きを取り戻したのかもしれない。感情変化が乏しいことを、今日ほど感謝したことはないだろう。もしくは、度重なる事件である程度免疫が付いてしまったのかもしれない。
こういう緊急時に、正常な思考が戻った者勝ちであるのをいなりは本能から理解していた。だからこそ、いなりは感情が動くよりも先に思考を巡らす。そうすれば、必然的に
しかし、いくら状況の分析ができたとしても、黒羽の言う通り最悪であることには変わらない。
「せ、せやけど黒羽が昔倒せたんなら羅刹様でも問題はあらへんのちゃう?」
「問題大ありなんだよ。」
八重の言葉を黒羽がぴしゃりと否定する。
声音からして、彼が冗談を言っているようではない。黒羽の顔には焦りの色さえ見えた。
「僕があれを沈められたのは完全な一対一だったからだ。」
その言葉の含みを、いなりは問い返す。
「今回は何か別の要素が働いてるということですか?」
「普通に考えたらそうだろうねー。これはばりばり僕の主観だけど、
説明する気があるようでいて、黒羽はいなり達の理解を待つつもりは毛頭ないらしい。
聞き手の様子を全く気にすることなく黒羽は話し続ける。
「だからこそ、今回は裏で糸を引いているヤツがいる。そうじゃないと、こんな都合よすぎる状況作れないよねー。」
つまり、黒羽の話によれば檮杌には自律した精神がない。破壊衝動のみによって動く、殺戮マシーンのようなものだろう。それにもかかわらず、セツがちょうど単身になる機会を作ったときに復活した。
確かにこれはできすぎている。誰かが後ろで、筑後組とレジスタンスの抗争を引き起こした、それだけでなく檮杌の復活を手引きしている。そう考えるのが自然である。
黒羽は誰とははっきりと言わなかったが、その言葉の先がいなりには察しがついていた。それは、謎の黒ずくめの男―――仮想怨霊事件の裏で暗躍していたと考えられる、人間である。人間とはいえ、その実力は八重と張り合えるほどであり、決して侮れない。
黒羽は小さく舌打ちをうった。あの男を捕らえそこねたことを、
「それにさ、僕だって檮杌を簡単に倒したわけじゃない。あれは強いんじゃなくて、とにかく頑丈で、でかいんだ。上陸の阻止までならセツひとりでもできるだろうけど、潰すとなったら総力戦でかからないと無理だ。僕だって結局、あれ相手に丸々三日は費やしたからねー?もう妖力が底を尽きるかと思ったよー。」
「今思い出すだけでもしんどかったなー。」と黒羽がこぼす。
それを聞いてさあっといなり以下聞いていたものの多くの顔から血の気が失せる。
その気持ちはわからなくもない。
三日しか費やさなかったのではない。三大妖怪の全力の攻撃を浴びてなお、三日も倒れなかったのだ。
大妖怪に数えられる妖怪たちは皆強大な力を持っている。だが、初代の三大妖怪は別格だ。彼らが本気になれば、おそらく地形を変え、気象をも動かすこともできる。
黒羽はまさにその天災みたいなバケモノの一角である。それと渡り合った檮杌がどれほどヤバいのかは推して知るべしだ。
「あ゛あ゛ったく、糞親父め!!」
愁は頭を掻きむしり、吐き捨てるや否や一人で駆け出していく。
八重の「待て」という言葉は彼に全くと届いていない。
「あの脳筋め・・・!ここで短絡的に動いても意味ないのがわからねぇのか!?」
八重が声を荒げる。
しかし、だからといって悠長にしている暇はない。こうしている間も、刻一刻と檮杌はこの地に迫ってきているのである。
「とにかく、私たちも愁様の後を追いましょう!烏天狗、案内しなさい!!」
数弥の言葉に皆がうなづく。
だが、その時。仕組まれていた仕掛けが起動した。
突如、おおおんという雄たけびが空気を揺るがせる。
声のする方には、虚空に向かって叫ぶ、人狼の姿。
否、先ほどまでの人狼とはまるで姿が違う。
体が倍に膨れあがり、三メートルはあろうかという巨体にまで成長している。さらに爪は剣のように長く鋭く伸び、口から見える大きな牙はてらてらと輝いている。
もはやこれは狼男ではなく、怪獣だ。
「彼奴、さっきまで倒れてへんかったか!?」
「おかしか・・・てか、まずいばい、俺ん術がきかんくなっとー!」
人狼の固有能力―――“狂戦士化”。
“獣化”のリミッターを外したこの形態は満月の夜にしかなれない。昼間でも行うのは、それなりの負荷―――すなわち、命を削ることとなる。そのため、蓮司との戦闘のときには使わなかった、人狼の切り札である。それを使うということは、人狼の理性が完全に飛んでいることを意味していた。
実は、これは人狼が理性を自らなくしたわけではない。他者から仕組まれたことである。
しかし、そんなことをいなりたちが知るはずもない。
分かっていることはとにかく、目の前の敵に立ち向かうしかないということだけだ。
ここにいる面子で一斉にかかれば動きを封じることぐらいはできるだろう。だが、それまでにどれくらいの時間がかかるのか。
「いーんや、ここは俺らに任せて、いなりちゃんたちは行きな。」
蓮司の言葉に、八重が素で「はあ?」と聞き返す。
「お前何言って」
「何もこうにも、そんままの意味たい。」
「なあ」と蓮司が数弥の方を見る。
数弥はため息をつくがしかし、吹っきれた表情をしていた。
「蓮司の言う通りです。今の愁様の傍には、あなた方が必要だ。」
「そーいうわけやけん、俺らは後片付けしてから行くね~。」
数弥はまじめなひとだ。
きっと、今すぐにでも羅刹のもとへ駆け付けたいに違いない。蓮司だって、ちゃらんぽらんとしているが、その実羅刹や愁のことをよく考えている。だが、彼らは自分を押し殺し、やるべきことを見失わないようにしている。
それを無碍にできるだろうか。
託されたものを、放り捨てるほどいなりの器は小さくない。
何より、愁に何か一言言ってやらなければ、気が済まなかった。
「分かりました。」
「行くのか、いなり。」
八重の言葉にいなりがうなづく。
黒羽は「やっぱそうなるよねー。」と、あきれたように、だがどこか嬉しそうにつぶやいた。
「ここで行かなければ、私は今後愁の友人を名乗れなくなります。」
その言葉を聞いて、数弥は深々と頭を下げた。
「どうか、羅刹様と愁様を頼みます・・・!」
数弥の言葉に後押しされ、いなりたちは愁を追い、全速力で駆け出す。
◇◆◇
海上では静かな、だが激しい攻防戦が繰り広げられていた。
静か、というのは常人の目ではとらえきれないほどの速さでふたりが動いているからである。
夜叉の妖力を継承している羅刹は無論、雷の妖力を持つ。雷を自在に操ることはもちろん、自身を雷と同一化することができる。
大気の中にプラスとマイナスの電荷が発生して電界が生まれたとき、目に見えないような複数の小さな電流が雲から地上へ向かう。それが地上に到達すると通電し、地面から上空にめがけて電流の柱が登る。これが雷のメカニズムである。ここでいう、電界が発生する場を雲ではなく自身の肉体に置き換える、すなわち自分自身が電界となることで雷と動きを同化させることができる。
雷鳴は一秒間に360メートル進むと言われるが、それはあくまで“音”である。電磁波である雷“光”は1秒間におよそ30万km。無論、いくら雷と同一化することができるといっても肉体の限界があるため、さすがに光の速度で動くことはできない。だが、裏を返せば肉体が耐えられるまでならいくらでも速く動けるのだ。鬼の体は他の妖怪に比べて屈強であり、さらに羅刹は酒呑童子という最強の鬼の血を引く
彼は、己の肉体で音の壁を超えることができる。
海上で、しかもバケモノの頭上という場所でトップスピードを出すことは難しい。だが、それでも羅刹は剣戟の残響を空間に置き去りにしていた。
だが、恐るべきはクロと名乗る人間の男だった。
肉体は人間の域を出ない。にもかかわらず、羅刹と渡り合っている。
転移術を演算によるタイムラグなしで使い、羅刹の攻撃をよけているのだ。要するに擬似・瞬間移動である。
ならばと直接攻撃から斬撃による中距離攻撃に切り替えるが、攻撃はクロに到達する前に消えてしまうのである。
はじかれている、というわけではない。ある一定の距離で術が消滅するのだ。
(無効化されているってことか。)
妖術の無効化ということは、結界のようなものを張っているのだろうか。
妖怪を排除する類の陰陽道の結界術ならいくらでもある。ただし、結界というのは固定された力場を必要とする。
力場というのは簡単に言えば座標のようなものであり、どこからどこまでを結界内にして、どこから外とみなすかを決定する。これがなければ結界によって守る対象の条件以前に結界そのものが成り立たない。だから、結界は動かせない。
だが、羅刹と対峙するクロは転移術によって俊敏に動いている。動くたびいちいち結界を張りなおしているようには思えないし、そんな隙があったら即座に羅刹が攻撃を叩き込んでいる。そうすると、答えは必然的にクロが常時自分を覆う結界を発動させているという結論に行きつく。
妖術による攻撃は不可能。つまり、接近して力づくで結界を壊すしかない。だが、最初に述べた通り羅刹の攻撃は転移術によって避けられてしまう。陰陽術で仕掛けてくることもあるが、クロはあくまで守りの姿勢である。また、クロは羅刹の消耗を狙っているようだった。この状況、クロの動きは防戦一方のように見えて、逆に追い込まれているのは羅刹の方なのだ。ぶっちゃけ、クロはここで羅刹に負けてもとうこつさえ上陸させてしまえば勝ちなのだ。たいして、羅刹の勝利条件はクロを倒し、かつも倒さなければならない。
この無理ゲー状態でも羅刹が冷静に対処できていたのは、昨日のうちに黒羽と情報交換がすんでいたことが幸いした。
だが、それにしてもである
(相手が悪すぎる。)
あと、どれほどで地上が見えてきてしまうか。
羅刹の額にじわりと汗の玉が浮かぶ。
「さすがの南の四大妖怪サマでも、たったひとりで全てを負うのは苦しいだろう。」
いつの間にか懐に転移してきたクロの掌打が、羅刹の顎を狙う。
反応がわずかに遅れた。
間一髪で羅刹は首をのけぞらせ、そのままバク転をして距離をとる。
そして、硬直状態が訪れる。
「お前の狙いは神巫か?」
羅刹は揺さぶりをかけてクロの反応をうかがう。
「さすがに知っていたか。」
羅刹の言葉にクロはそれだけ答えた。
相手が話に応じるならば、情報は引き出しておきたい。
羅刹は会話を続ける。
「わざわざ俺の土地を狙ってきたのはコイツが沈んでいたからか?」
羅刹はとんと、かかとで足元を蹴る。
「それもそうだが、一番の理由ではないな。本来ならば、ここは真っ先に潰しておきたい地だったよ。」
「どういうことだ。」
「私の計画は、もっと昔から進んでいてね。」
クロは語る。
その口調は、まるで年寄りの昔語りのようだった。
「神獣は純粋な
話の全体像が見えてこない。
羅刹の頭は混乱する。
クロは顔こそ隠しているが、二十代か三十代の男だと見積もっていた。
だが、この男が言うことが正しければ、彼はもっと昔から生きていることになる。
男は一体いつから生きているというのだ―――?
「十年前のことだ―――ようやく待ち
クロの声音が変わった。
怒気をはらんだ言葉を羅刹にぶつける。
「本来ならば真っ先にこここを潰そうと思ったが、駒が好き勝手動いてくれたおかげで計画がずいぶん遠回りになってしまったよ。」
羅刹はだらりと、刀を持つ腕を下におろした。
黒い男の言葉に圧倒され、放心しているのではない。
「だが、今、ようやく果たせる。復讐も、待ち望んだ神巫の獲得もな・・・!」
羅刹は、途中から男の話に耳を傾けていなかった。
それどころか、男のことなぞさっぱり頭から抜け落ちていた。
彼の脳は、十年前の記憶をたどっていた。
「十年前だと―――」
だらしなく空いた口から、ぽろりとつぶやかれる。
今でも昨日のことのように思い出せる、十年前のあの日。
大地がひっくり返ったかのような大地震。
火山から立ち上る黒々とした噴煙。
家々は火事で燃え、灰色の空からは黒い雨が降り注ぐ。
蘇る、生暖かい血のぬくもり。
反対に、冷たくなっていく抱えた彼女の体。
あれは、事故ではなかった。
「そうか。お前が俺の
深海色をした瞳に、憤怒の色がともった。
◇◆◇
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