第17話 太一 16
かすり傷だった子達の親は、もう、この件は、1日も早く忘れて、日常に戻ることを望んでその訴訟には、加わらなかった。
子供達の心の安静が一番だからと。
重傷を負い、怪我が良くなっても、一生車いす生活。
先生には、長時間、その車いすに座っている事すら、困難かもしれないといわれいてる。一生働く事も出来ず、親である自分達が、死んでしまえば誰も、面倒をみてくれない。
せめて、きちんと介護を受け、天寿を全う出来るだけのお金は、確保してやりたい。
もしも、生きる為に、心の支えのために、本人が何かを、望み、それに、お金が必要になるかもしれない。
だから、出来うる限りの金額を請求したい。
同じ事故なのに、目的が違う。
相容れる事が出来ず、お子さんが亡くなられた、かた達とは、別々の訴訟となった。
担当は、亡くなった二人のお子さんの訴訟は、大先生。
体が不自由になってしまったお子さんの訴訟は、お嬢さんが担当する事になった。
太一の初仕事は、その事故の資料をつくること。
事故現場のむごたらしい写真。
傷だらけの少年の体。
頭に包帯がぐるぐる卷かれた、青白い少年の顔。
そして、切り落とされた部分があらわになった、下半身の写真。
一つの案件なので、同じ物を二つ作る。
今まで判例集をみることはあったが、そこには、文字しかなかった。
実際の裁判は、文字だけではない。
「現実」がそこにある。
その事に気付き、愕然と立ち尽くしたが、今、そんな事を思い、感傷に浸っている場合ではない。
仕事仕事!そして、勉強。
必死で、勉強して、頭に詰め込まねば、ならない。
裁判、それは、紙の上の出来事ではなく、現実である事を自覚しただけでも、この法律事務所で働かせてもらった甲斐があった。
学校に提出するレポートみたいだけどこれで良いのか?
毎日が試行錯誤
事件らしい事件の民事訴訟を扱ったのは、始めのこの案件だけで、後は、隣人同士のちょっとしたトラブルの仲裁や、近隣の人の離婚訴訟や、商店街の一角が開発される事になり、その契約に、だまされてはいけないと、多くの店主が相談にやってきて、毎日、大忙しで過ごす。
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