第9話 太一 8
坂野の太一に対する始めの印象は、軟派な顔に反して、何だかバカまじめで、付き合いづらそうに感じたと言う。
人は、ちょっと見と、親しくなって来るとずいぶんと印象が変って来る物だと二人大笑いした。
新しい環境に、戸惑いながらも夏が来て、長野の山で5泊6日の合宿。
合宿と言っても、厳しい練習が待っている訳ではない。
今回は、トレッキングに、ラフティング、パラグライダーなどが予定されていて、太一がやった事のないスポーツも多くあるので、わくわくしながら長野へ向かった
初日は、午後2時過ぎに到着。
皆で、近所を散策したりして、2日目は、距離が短めなコースのトレッキング。
ワイワイ、キャーキャー、笑いながら、目的地に到着、宿で用意してもらったお弁当を食べ、景色を楽しみ、すこしのんびりした後の帰り道、女子大生と思われるグループと出会った。
一人が急な腹痛で歩けなくなって、救急車が入って来れるような所ではないので、どうしたら良いかのかと焦っている様子。
で、一生懸命具合の悪い子の世話を焼いていた子が可愛い。
先輩達が、このトレッキングコースの管理者に連絡して、どうするのが良いか、聞いてみたら、とか、あれやこれや、話している横で、太一は、ただただ、その可愛い子に釘付けになっていた。
太一は、はっと我に帰り、具合の悪そうな子を心配するのではなく、その隣にいる子が可愛いと見とれている自分に呆れた。
すると太一の横にいた文学部の荒井妙子が、
「あれ?水野さん?」とその可愛い子に向かって言った。
「あっ、妙子ちゃん?」
「こんな所で、会うなんて・・・」
「あ〜知り合いと会えて良かった。」
「どうしたの?えっ、具合悪いのって佐藤さん?」
「そうなの、皆で、旅行で来て、往復4時間ちょっとだって言うから、来てみたんだけど・・・30分位前からお腹痛いって、少し様子を見ている事にしたんだけど、どんどん悪化しているみたいなの。」
「荒井さんと同じ学部の子?」
「はい」
「そうなんだ、いずれにしろ、このままじゃどうしようもない。
レスキュー待っているより、皆で交代で、おぶって下りた方早いんじゃないですか?」
と太一が提案した。
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