第5話 太一 4

親や、祖父母達の時代のT大といえば、苦学生が多く、家にお金が無くても、この大学に入れば、将来が約束されると、奨学金などを使い、さらにアルバイトを目一杯する。

実家が地方の人は、学生向けの、3畳一間、風呂なし、トイレは共同という、アパートに住んでいるイメージ。

でも今は、湯水のようにお金を使う事が出来るいわゆるお金持ちの家に生まれ育ち、塾や家庭教師から、充分な教えを請えるような、人達が半数近くを占め、私立大学と比べれば格段に入学金や、授業料が安いので、家にはお金が無いから国立の大学に行くしか無いなどと言う、昔の苦学生に近い人達は、少数派になってしまっている。

そういった事情の中、太一は、絵に描いた様な、中流家庭。

何というか、中途半端な立場で、家からの仕送りは、ギリギリ、授業の無い時間は、アルバイト等という人達との付き合いは、授業と授業の間の休み時間に限られ、なかなか友人と呼べる人達にはならず、かと言って、ゴルフ部に所属する大金持ちのご子息、ご令嬢のような人達には、とても付いていけない。

類は友を呼ぶということわざ通り、知らず知らず、同程度の家庭環境の人達とつるむ様になる。


それにしても、大学の部活は、1年間で、何十万円もかかる部活も少なくないし、吹奏楽部は、何百万もする楽器を自腹で買う事もあるという。

ゴルフ部もご多分に漏れずってところ。

公認のクラブは、学校からの補助もあるし、将来の就職の時に有利に働くと、言われていて、運動部は特に団体競技では、レギュラーになり、全国大会で活躍出来れば、より、有利と、みんな競って入部したがるけれど、それって、何だか変だと思う。

学業を全うしただけではだめで、運動部で、レギュラー取って就職なんて・・・・


まあ、それはさておき、実際問題、年間200万円もかかる部活には入れない。

さて、どんなクラブに入ったら良いんだろうか。


入学式を終え、各学部、どの授業を取るか決まる頃、各クラブや、サークルは、必死で、人材確保の為の呼び込みを校内のあちこちで行っている。

とあるサークルを運営している、4年生に呼び止められた。

「君、君のそのフェイスを生かせる同好会に入りませんか?」

「ああぁ?」

フェイスって、顔?

何だ?その顔を生かせるって?と思い、立ち止まり聞いてみると。

真面目を絵に描いたような太一には、とても似合わない、そのサークルは、簡単に言ってしまえば、軟派して、女子と飲み会を開いて、楽しく過ごそうというような、動機が不純なサークル。

もちろん、太一は、そういうサークルには入れないからと断った。

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