第4話 太一 3
太一の両親、裕太、百合香夫婦は、まじめにコツコツと働き、倹約を旨として、生活していたが、子供達の教育費だけは、塾でも、家庭教師でも本人の望む限り、惜しまず出費し、太一は、国立のT大へ、その妹の里美は、N女子大に入学させてた。
それと同時に、千葉の工場や、そのコンビニからさほど遠くない、ぎりぎり都内に、一軒家を購入した。
太一の母である百合香は、祖母の女手一つで育てられた。
祖母の永江雅子は、お医者さんで、百合香が産まれて間もなくから東京の杉並区の自宅で永江医院を開業している。
お手伝いさんと、看護師さんが必ず、家にいたので、患者さんが立て込んで、なかなか、母親の顔を見れない時もあったけれど、百合香は、寂しいと感じる、ことなく育つことができた。
太一の知る限り、祖母は、シャキシャキしていて、いつも笑顔の人だった。
太一がまだ、何に対しても遠慮のない、年頃だったころ、
「僕の、お爺ちゃんは、何処にいるの?」と聞いた。
「お母さんが産まれる前に、お別れしてしまったの」
と言った祖母の悲しい目を、今でもはっきりと覚えている。
それ以来、母方の祖父の事は、一度も話題にした事は無い。
祖母は、かつて、大学病院に勤めていたころ、たまたま知り合った、男性と不倫の恋の果てに妊娠。
太一の母の百合香を産む事を決意し、親からは勘当され、不倫の相手とも別れて、実家のある港区を離れ、当時、まだ、土地が安かった、杉並に家を買って、内科と小児科の医院を開業したと言うことを、太一が知ったのは、弁護士になってからだった。
太一は、入学してすぐに大学のゴルフ部の部長に年間の個人負担の金額を聞きに行ってぶっ飛んだ。
月平均5万円、合宿時は、旅費宿泊費の他に、10万から、20万円。
5月の連休、夏休み、冬休み、春休みにその合宿があるという。
その他に、試合の遠征費、試合の出場費。
その前にクラブやウエアーも調達しなければならない。
「まあ、年間200万あれば、何とかなると思うけど?」
と軽く言う部長の腕には、親父がいつかは欲しいと切望しているロレックスの時計が輝いていた。
学費よりも多額の部活費って・・・・・大学のクラブ活動というのは、想像を超えてお金がかかる。
いや、中高の部活でもレギュラーとベンチを行ったり来たりだったので、なおさら、遠征費や合宿費にけっこうお金がかかることを、両親に申し訳なく思っていたのだけれど、両親は、嫌な顔一つしなかった。
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