第2話 太一 1

<11年前>

太一は、1年間、通学の時間と食事とトイレとお風呂の時間以外、なりふり構わず、必死で勉強し、東京の国立大学の法学部に入学した。

高2の進路相談の時、国立大学の法学部に行きたい、と言うと、進路指導の先生でもある、担任は、鼻で笑って、無理!と一言、冷ややかな目で言われた。

どうしても、法学部に行きたいのであれば、都内の有名私立でも、かなりハードルが高いので、地方の2流か、3流の大学を選ぶしかないと。

だから、対抗心剥き出しで勉強した。


始めのうち、通学時間も教科書を離さなかったが、家の近所の小さな路地で、新聞屋さんのバイクと出会い頭にぶつかり、足を捻挫した。

なので、当たり前だが、歩きながら、教科書を開くのは、辞めた。

努力の甲斐があって国立のT大法学部に見事に合格。

そして、どんなもんだい!と担任に合格を報告したとき

「お前は受かると思ってたよ。

あの時、思いっきり、無理って言ったら、お前は、発奮してとことんやる奴だと思ったから」

と、自分のおかげでお前は受かったんだと言わんばかり。

ふざけんな!と思ったが、確かに、あの時、ああ言われなかったら、あんなに真剣に勉強をせず、本当に、地方の3流大学か、見事に浪人か、どちらかだったかもしれない。


中学、高校とサッカーをやっていた。

大学にもサッカー部はあるけれど、あくまでも司法試験を目指しているので、チームプレイの部活は、いつ、勉強がいっぱいいっぱいになって、仲間に迷惑をかけることになるか解らないので、個人プレイのスポーツがやりたい。

そう思って、ゴルフ部に入ろうと思っていた。

何気なく母親に言うと。

「ゴルフ部ってコースとか回るんでしょ?

学費は、なんとかなるけど、ゴルフ部ってお金かかるんじゃない?

そこまでは、出してあげられないかもしれない。

来年は、里美の入学金もいるし、学割とかで安くしてもらえるのかしら?」

「そこまで考えてなかった。

でも、部活の費用は自分でバイトでもしてなんとかするから、心配しないで!」

「ごめんね」


太一の家は、特別貧乏ではなかったけれど、決してお金持ちの家庭ではなかった。

それでも、お互いを思いやる事の出来る、暖かく、笑いの絶えない、家庭だった。

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