第12話 足りないパーツの埋め方
落ち込んだままの俺に大輝がひと際明るい声をかけようとしてきた。
「まあとりあえずだ。このままってのも格好着かないだろ」
「そうね。私もあいつをこのまま見過ごす気はないわ」
「お、お前ら……」
サムズアップする大輝と不敵に笑う如月。どちらとも今覚悟を決めたような表情には見えなかった。まさかこいつら最初から乗り込むつもりだったのか? 俺だけが一人で盛り上がって、落ち込んでいたのかよ。
「なんだよ、まったく……」
「異能を取り返したい翔太と『
「二人で決闘してオルガを倒せばいいってことか」
「あんた口で言うのは簡単よ? そもそもわかってる? 二対一の決闘をオルガが受けるはずないじゃない。それに足取りをつかめないのが一番のネックよ」
「そ、そんなに一気に言わなくてもいいじゃないすか……」
軽はずみで口を出した俺に如月がこれでもかと噛みついてきた。小ばかにしたように鼻で笑う仕草に、思わず顔をしかめてしまった。代わりに「じゃあどうすんだよ」という視線を大輝に投げかけてみる。
すると自信気ににやりと笑みを浮かべて見せた。
「安心しろって。そこら辺もちゃんと考えてある。お前らが二人で戦い、かつオルガが戦わなければならない状況を作ればいいんだろ? それは――」
「それは……?」
「なんだろう?」
「こっちが聞いてんだよ!」
「…………」
「おいやめろ。じっと睨むのはやめろ如月。せめて翔太みたいにツッコんでくれ」
如月のジト目でさっきまでの威勢は膨れて消えていったらしい。まったく変に溜めるから余計に面倒くさいことになるんだ。それにしても、そんな状況を意図的に作り出せる方法はあるのか。また六魔の特権を引っ張り出さなきゃいいが……。
「そんで、結局はなんなんだ」
「よくぞ聞いてくれた同士よ。それは、ずばり学園祭だ」
「学園祭? 『太陽祭』のことかしら」
「そう、それ」
こくりと頷いてわかりやすく肯定を示す。
太陽祭――。この学園に在籍する者ならほぼ耳にしたことがあるくらいのビックイベントだ。表向きは一般開放を前提に各異能者の能力公開を行うことで世間のイメージアップ、ついては祭りで楽しませることを目的としている。普段俺たちは不用意に学園を出ることが許可されていないため、はるばる親御さんたちが来る例もあるのだとか。
だが、実際にはもう一つの目的の方が大きい。学園生徒が参加できるトーナメント方式の決闘で序列を決めるのだ。そしてその頂点から以下六名を集めたのが『六魔』として結成される。
つまり現・六魔の大輝や如月もこの大会で勝ち残った、れっきとした実力者なのである。一方で俺は一年前のそれに参加しなかったから序列を与えられていないというわけだ。
「でも決闘はタイマンが基本よ。運よくトーナメントでオルガと当たっても、結局は私か黒崎のどっちかが闘うことになるじゃない」
「例年まではな。だが今年は違う。決闘祭の仕組みをちょっといじらせてもらう」
「おい、話が見えないんだが……」
「最後まで聞けって。俺は現六魔だぞ? この決闘祭を多少は有利にできる権限位はある」
やっぱりまた特権だった!
「組み合わせも細工は仕込めるが……まあどうせお互い上まで登れるのはわかってる。自然と当たるのは予想できるから、いじるのは別の所だ。そもそもの前提を変えてやる」
「そもそもの前提って……まさか!?」
「そう、タイマンじゃなくツーマンセルだ」
大輝の名案に思わず感嘆の声が漏れ出た。確かに二対二の状況が公式で定められているなら、俺と如月が一緒に闘うことが可能になる。オルガも相方を連れてくるのは必然的だが、どちらにせよ悪くない提案だろう。
「俺たち六魔は強制参加だからオルガを確実に引っ張り出せる。公的な場だから逃げられることもない。さらに二人組ならお前らで組むこともできる。どうだ?」
大輝はまたふふんと得意げに鼻を鳴らす。残っていたジュースの氷をがぁーっとかき込むとがりがりと氷を口の中で砕いた。
俺たちの利害は一致しているし、異能を取り返すにも悪くない条件。この機会を逃す手はないだろう。強い如月と手を組めるなら俺もありがたい。取り返すついでに太陽祭で優勝してしまえば、おそらく六魔にだって入れるかもしれない!
俺は立ち上がって如月に手を出した。
「頼む! 俺に力を貸してくれないか!」
「それはこっちのセリフよ。あんたの残りの力全部搾りなさいよ」
「ああ、全力で勝とうぜ」
互いにぐっと握りしめて意を交わした。如月と組めばオルガに勝てる。根拠もまるでないが、それでもなぜか心の底から自信が湧いてきていた。
「あぁー、盛り上がってるところ悪いが……」
大輝が何かを言いにくそうに水を差す。なんだよと目で尋ねると、
「アイツの能力の詳細はわからないが、別の異能を奪っちまうと今持ってる翔太の『具現化』が消えちまうかもしれん」
「は?」
「いやだってそうだろ。複数の異能を使いこなせるほどのポテンシャルあったら世界転覆だろ。だから異能の制限としてそれくらいはありそうな気がしてな」
「いやいや、冗談じゃないぞ! 早く決闘しに行かねえと!」
「さっきまでの流れ全部返せ!」
大輝が最後にとんでもない爆弾を投下してくれたのだった。――『双方決闘祭』まで、あと三ヶ月。
**
如月と早々に別れた後に俺と大輝は二人で寮へと歩いていた。
「なぁ大輝」
「どしたよ?」
「やっぱり今すぐにでもオルガと戦った方がいいんじゃないか?」
あの爆弾のせいでどうしても早く異能を取り返したいと焦ってしまう。それがどんなに無謀だとしても。店の中で披露した決闘祭の案の方が遥に効率がいいのはわかっていても、やはり……。
「焦るな翔太。さっき言ったのは可能性の話としてだ」
「俺にとっては1%でもあったら困るんですけどね。そこんとこ分かってもらえます?」
「あいつは『具現化』を完全に奪うつもりだったはずだ。それなのに半分しか奪えなかった。それを別の異能で消すなんてことはないだろうな」
「まあ確かに……」
言われてみれば筋の通った理屈があった。
「いや、でも、今のままじゃ勝てないと思うんだが……」
「つまり?」
「俺にかけた武術の封印を解いてくれ」
「……まあそう来ると思ってたよ」
異能をまともに使えず、武術もなしにオルガと戦えというのは酷な話だ。俺にとっちゃ武術は生命線だ。今、異能がないのなら戦い方は自ずと絞れてくる。
とにかくここは土下座をしてでも……!!
「いいぜ、解いてやる。お前と友達になった以上、解いてやるのはいつでもできたんだ」
「あ、れ……?」
「武術禁止ってのは制限は俺の匙加減の問題で、あのペナルティはそこまで重くないほうだ。正直すぐにでも返却はできたが、制限してた方が面白いなって思ってな」
「は、え、そんなあっさりと返せるもんなのか? てか、いつでも解けたのなら教えろよ!」
「いやぁーすまんすまん(棒読み)」
「おまっ! 本当は忘れてただけだろ!?」
思わず殴りかかろうとした俺に大輝が、
「黒崎翔太に『武術の使用許可』を与える」
と言うや否や、突如俺の体が光り始めた。体に巻き付いていた光の鎖がはじけ飛ぶ感覚。そして今まで何か欠けていたものが、ずしりと俺の体に埋まった気がした。
「昔みたいに悪いことに使うなよ?」
「誰が使うかっ! てか、一度も使ってねぇよ」
そんな軽口をたたき合う中で俺は確信する。――――反撃開始だ!!
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