第11話 最低で最悪の終わり方
一通りの会話を聞いて状況を把握した俺は、どうやってオルガから異能を取り返すかを一人で考えていた。
どこかに消えてしまったオルガを手掛かりなしに見つけ出すだけでも困難なのに、俺が奴と対面して勝つことは可能なのか。仮にも六魔の一人、序列で言えば如月よりも格上の存在だ。
おそらく今の俺が行ったところで、返り討ちに遭うのがオチだ。下手を打てば残っている半分の方の異能を持って行かれて終了。最悪な結末までは避けたい。理想はこっちの全戦力を挙げてでも……って、そこまで協力を得られるのか?
大輝や如月に手を貸してもらって……あぁ、和葉さんにも手伝ってもらうか。生徒会の方が忙しくなければだが、でも終わった後の見返りが恐ろしすぎる。
いったいどうすりゃいいんだ!?
なんて考えていると、大輝と如月の会話はどんどん進んでいく。
「なぁ如月。話はそれだけで終わりか? 俺はまだ何かありそうな気がするんだが」
「べ、別にこれ以上何もないわよっ!?」
「そうかぁ? 言いたくないってなら俺は構わないが」
「そうよ、あんたには関係ないんだから……」
「母親のかたきって言ってたのは覚えてるけどな」
「……きっ、聞いてたの。うぬぬぬぬ」
「同じ六魔なら問題は皆で解決するべきだ」
大輝の真面目な顔つきに何か思う所でもあったのか、少し悩んだかと思うと如月は深いため息をついた。そして俯いたままぽつぽつと語り出した。
「あたしが入学する前のことよ。『異能者狩り事件』、知ってるわよね?」
「アレか……。『
「そう。それにあたしのお母さんが巻き込まれて重傷を負ったのよ……。止めに入っただけで傷つけられた。一般人が異能者を馬鹿にしてる? 見下してる? そんな勝手な理屈おかしいじゃない」
「『幽霊の心臓』に逆に狩られたってわけか」
「だからこそ、あたしは連中が許せない。絶対に潰す。たとえオルガが表向きは六魔だとしても、連中と関わっているのならばその資格を剥奪するまでよ」
「あ、その事件なら俺も聞いたことあるな。確か一部の異能者が起こした事件によって、この学園が創られたきっかけにもなったとかなんだとか……」
「メンツも入れ替わってまだ組織が続いてるってのも皮肉な話だよ、ほんと」
俺が口を出す傍らで、大輝はいかにも面倒くさそうに鼻を鳴らした。
ところで俺はこの会話の流れでどう手伝ってもらうかを考えていたのだが、どうにも大輝は如月の過去にご執心のようだ。普段からよくしゃべる奴だが、こういう時は便が立つのが際立って見える。学園の裏側に興味があるのか、組織的なものに興味があるのか。六魔に入っているのも特権を生かして、何かを探るためなのだろうか。
さてさて、どうしたものか。何かうまいこと強制的にでも手伝わせることができないものか。うーん、ペナルティのように絶対遵守の約束を……。
「あ」
「なんだ、いきなり」
妙案が降ってきた俺は思わず如月に詰め寄った。テーブルから身を乗り出して、顔をじっと見据える。
「なあおい、如月!!」
「な、な、なによいきなり!? そんなに顔を近づけられるとびっくりするじゃない!」
「そんなことよりも聞いてくれ! 俺の『ペナルティ』がまだ残ってただろ? それを今使うから、オルガから俺の異能を取り返してきてくれないか!?」
「…………はぁ?」
人としては最低だが、我ながら最高の案だった。
自分の安全を確保したうえで、実力の拮抗する奴をぶつけるという最強の計画。
どうだっ!? このすばらしい計画は。褒めてくれてもいいのよ?
「あー……その事をまだ話してなかったな」
と、今度は大輝が困ったように頬を掻く仕草を見せた。
「お前の‘お願い’なんだがな……。おそらくもう行使されてると思うぞ。なぁ?」
「ええ、そうね。確かに使ってたわ」
「はぇ?」
俺がいつ使用したって言うんだ。そんなこと口に出した覚えは一度もないし、なんなら今の今まで忘れていたまであるぞ。それともなんだ、無意識に使ったとでもいうのか。納得できずに一人で首をひねる俺に、大輝が追加で説明してくれる。
「翔太、お前がオルガに首を絞められていた時のことを覚えてるか」
「オルガに……? あの時は――」
「何かを願わなかったか」
「……願ったぁ? いや、普通に誰か助けてくれって……ぁ」
「もう気づいたか?」
「ま、まさかな。そんなことあり得るのか? だって正式に依頼したわけでもないのに、あの状況下で言葉にしただけでか!?」
困惑する頭にもう一つ外から冷静な声が被せられる。
「黒崎は私に助けを求めた。だから私は異能発動の詠唱を言わされた。残念ながらアレは私の意思ではなかったし、絶対に動くつもりもなかった」
「結局助けようとする意思はなかったのかよ!」
「私の能力が取られるなんて絶対に嫌だもの」
「あーもうなんだよくそ……」
「落ち込んでるところ悪いが、そんなわけでもうペナルティは残ってない。お前と如月の賭けはこれで消えたことになる」
「だからあんたと私の決闘もなかったことになるの」
「いや、それはならんだろ」
「なんでよ! 別にいいじゃないそれくらいっ!」
大輝のしれっとしたツッコミに如月は憤慨する。だが俺はそこまで気が回らなかった。俺の無意識の所で頼みの綱が途切れてしまっていたなんて。さっきの計画も台なしじゃないか。
「終わった……すべて。あぁ、なにもかも……」
口の中でそう呟くと、俺は椅子に崩れるように座り込んだ。
はは、絶望的だ。
悲しすぎると笑ってしまうとは聞いたことがあったが、人間本当に絶望に浸ると乾いた笑いしか出てこないのか。なんでだよ、なんで俺だけがこんな目に会うんだよ。
大輝には武術を縛られて、オルガには『具現化』を持っていかれて。俺はなんのためにこの学園にいるんだ? 自分のアイデンティティが完全に崩れている。
『異能らいふ』これにて終了です――俺の来世にご期待ください。ってか。
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