第8話 収束する閉幕

「これで終わりよ! …………ぁ」


 そんな声と共に。ピクリとも動かなくなったところを見ると、どうやら気絶したらしい。試合終了を知らせる笛が鳴る。


「そこまでだ」


 スピーカーから大輝の声が聞こえてくる。よし、とりあえず勝ったぞ! 俺の脳内が勝利という二文字で埋め尽くされる。達成感とともに全身に疲労がのしかかり、『具現化』で生成した七刀を維持することもままならなくなる。

 如月の能力で俺を拘束していた氷鎖は気絶と同時に解けているというのに、ちっとも動けそうにない。この異能、消費効率が悪すぎるだろ……。

 を俺は意識ごと手放した。



                **



 次に俺が目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。よくある見知らぬ天井……と言いたいが、一年の時に大輝に押しかけられて『電撃プラズマイル』で気絶したときに運ばれていたことを思い出した。あの時は確か治癒受けてたっけ。

 ふと、誰かの気配を感じてベッドの脇に目線を流すと、美鈴ちゃんがパイプ椅子に腰かけていた。


「目が覚めましたか? 翔太先輩」

「ぁあ、うん」

「兄さんから連絡が来て駆けつけたら、気絶していたのでびっくりしましたよ。無事でよかったです」

「ごめん、心配かけたか」


 相当不安だったのか、俺が普通に会話している様子にどこかほっと胸をなでおろしていた。ここで大丈夫じゃないなんて言ったら、甘えさせてくれるだろうか。なんて湧き出た少しの欲は、濡れ眼の彼女の表情でどこかに消え去ってしまった。


「もう大丈夫だからさ。ほら、こんなに……っと」

「まだ無茶しちゃだめですよ! 能力消費後は精神不安定になりがちですから。酷使して過労で昏睡状態になった一例もあります」

「わかった、気を付けるよ……」

「んーんーんー!」


 ぷくりと頬を膨らませてわかりやすく怒ってくれる。カッコつけるのは体調が治ってからにしておこう。素直に謝るとちゃんと笑顔で返してくれた。笑うと幼げな印象が強く、すごくかわいい。

 というか、今何うめき声みたいなのが聞こえた気がしたが。今はそれどころではない。気になったことが一つあった。


「ところで、美鈴ちゃんが俺を運んでくれたの?」

「…………。いえ、兄さんが……」

「……ッッ!! ~~~~~ム!」


 なんだよ、そのタメ。めっちゃ気になるんですけど。ここまで美鈴ちゃんが俺を運んだとしたら悪いことしたな、と思っていたが、違うのであれば負担が掛かってなかった事に安堵した。

 まあ、その後に聞こえたうめき声は無視するとして。


「兄さんが、その……あの」

「言いづらかったら、別にいいって。なんか別の話でも……」


 本当は無理にでも聞きたいけど。でもいやな予感しかしないんだよなぁ。それは少しの沈黙の後で見事に的中した。


「お! お、お姫様抱っこで………」


 よし、アイツ殴ろう。今一瞬で大輝のしたり顔が浮かんだぞ。


「と、ところで! 決闘の事なんですけど……」


 お。珍しく美鈴ちゃんが話を誤魔化した。「結果はどうだったんですか」とおずおずと聞いてくるので、俺はあの時のことを思い返した。

 どうしてあの状況で如月が負けて、俺が勝ったのか。二人倒れたのは置いておいて、あの状況でとっさの判断がなければ俺は確実に負けていた。俺は少しばかりどや顔で語りはじめようと――


「…………っ!! いfwなm㈱おくbあ!」

「さっきからうるせぇよ! せめて日本語で喋れよっ!!」


 あとお前はどこの会社なんだ。なんだよ㈱って。

 三度うめき声をあげ、俺と美鈴ちゃんから離れて壁に沿うように倒れていたのは、両手両足をロープで縛られた上に口をガムテープで塞がれた大輝だった。……何してんの、ほんと。俺が起きた時から既にこの芋虫が視界に入っていたわけだけど、話題にするのもアレだったので無視していたのだが、さすがに限界だった。

 隣の容疑者を見やる。俺と視線が合うと、すぅーっと横に流された。あ、コレは確信犯だわ。


「……とりあえず解いてやってくれ」

「でも、先輩にあんな無茶させたのはあのおバカですよ?」

「うん、まあ報復はするけどさ。うるさいんだよ」


 俺は美鈴ちゃんが大輝の拘束を解いていく様子を見ながら、先の決闘で起こった事を思い起こそうとした。


「ったく、作者もひどいよな。久しぶりに登場してこの仕打ちかよ」

「急にメタいことを言うな。誰だよ作者って」

「そうです、悪いのは兄さんだけです」


 曲がっていた全身を伸ばしたりバキバキっと関節をならしたりしながら、ようやく拘束を解かれた大輝は窓の方にうちかかった。


「そうだなぁ。どこから話すか……」

「俺も気になってた。どうやってあそこからなんて落とせたんだ。油断してた如月も悪いが、最後の――ぁ、って断末魔はウケたな」


 わざわざ煽るようなふざけたものまえを披露する大輝。ここに本人がいたら殴られてるぞコイツ。あれ、そういや如月もどっかに運ばれてるのか? 疑問を送ると、


「如月なら六魔専用の治療室だ。異能者の治癒受けるから即回復間違いなし」

「まーた権力使ってんのかよ」

「正当な権利と言え」


 なんでもないようにさっと大輝は返した。

 話がそれたが、如月が氷剣を振り下ろそうとした時に、俺が攻撃をしたことでうまく気絶させることができたわけだ。直前までまったく立ち上がることも、剣で防ぐこともできなかった俺が、だ。

 あの時ほんの一瞬先に俺は自分の異能『具現化オーバーキル』を発動させた。生成したのは剣じゃなく、左手に付着していた如月の氷だ。

 覚えているか? 俺の異能を。忘れたというならもう一度言おう。。これが俺の異能だ。

 それは俺が決闘中に使っていた剣のみならず、もちろん相手が生み出した氷弾もその対象に入る。物質を構築するための成分さえ理解できていれば、理論上は無生物ならどんなものでも可能だ。

 そしてもう一つ。初撃で俺は左手で如月の氷剣を受けている。異能で生み出した氷は融点が高いのか、俺の手の熱でもなかなか溶けきれずに残っていた。

 ここまで言えば、もう分かるよな? 俺は如月の頭の上に氷弾を生成して、落としてやったんだ。あんなもんを体に受けた俺でさえ、倒れ込んでうずくまるというものだから、脳天に直撃すればそれは気絶必須だろう。


「よくあの一瞬でコントールできたよな。結構便利な異能だなぁ」

「氷ならそこまで時間はかからない簡単な物質だったからな。ってか、この異能を持ってきたのお前だからな」

「どうだ、うわさに聞くに『最強』とさえ謳われる能力はよ」

「へぇー、そんなにすごい異能だったんですね」

「まあ、便利なようで使い方難しいうえに制限あるからなぁ」


 というわけで、俺が勝ちを納めてこの決闘は幕を閉じた。
















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