第7話 六魔との決闘
武術なしで誰かと真剣にやりあうなんて初めてかもな。ふとそんなことを頭をよぎった。自分の特技とはいえ、少しばかり頼りすぎていた気もする。
「異能『
如月の声が俺の意識を再び現実に戻す。
異能を発動する際の呪文は別に言う必要はないが、言葉にした方が自分の異能をイメージしやすい。俺や如月のように武器を発動する異能力者は特に。
「異能『
俺の異能を見せてやる。
詠唱が終わると同時に空中で微細な光の粒子が複雑に組み合わさり、七本の刀が生成されていく。原子は分子に、分子は構造を組み、物質を完成させる。やがてキンッ、という音を立て刀は俺の手に降りてきた。
異能『具現化』は自分のイメージしたあらゆる無機物を自在に生成し、操ることができる。ただその物体の構造を理解していないと細部から崩れてしまう。俺が刀身を生成できるのは、和葉さんからの入れ知恵に過ぎない。
体術を学んできた俺が剣を振るうなんて笑える話だが、使えないこともない。
一つ言えば七本もの刀を腰に下げて闘うまぬけがいるかっていうことだ。
「あんた馬鹿なの? 七本の剣を同時に持てるわけないじゃん? それとも何? 口にでも咥えるの?」
「はっ、言ってろよ」
「じゃあ、少しくらいは舞ってよねっ!」
如月は双剣を回しながら俺に接近してきた。こいつも近接タイプの能力か。俺は一本の刀で攻撃を受けていく。二刀流相手なら懐に入りこみたいところだが、どうにも間合いを詰めさせてくれない。
俺の横なぎも胴体をかすめる直前で、氷剣が解け分厚い盾に阻まれてしまう。かなり厄介な能力だな。自在に氷を操ることができるのか。
再び氷剣を生成したかと思うと、
「はあっ!」
いきなり氷剣を投げた。うそだろッ――自分から獲物を……。
予想外の行動に対応しきれずに左手でカバーしたが、重い一撃を喰らってしまった。氷剣はばらばらに砕けて地面に溶けていく。いや、まさかこれは囮かっ!
「おそいわよ」
「くそっ……」
背後からの蹴りに右から横腹を吹っ飛ばされた。数メートル後方へと飛ばされた俺は回りながら受け身を取る。げほっ、げほっ……躊躇なしかよ。剣術より格闘に重きを置いてるのか? かなり衝撃が大きい攻撃だ。
「アンタ私がただの氷の剣士だとでも思ってるわけ?」
「今はっきりとわかったよ……」
コイツは俺と同じ近接格闘だ。異能は補佐に過ぎない。
「もう少し期待してたんだけどなぁ……はぁ」
「それはちょっと早計過ぎないか?」
「もう十分よ、これで早くくたばりなさい」
如月は片方の氷剣も捨てた。そして両手から氷を、いや弾丸を俺に向けて放ち始める。くそ、やっぱ形は自在に変えれるのか!
放してしまった剣を拾って腰の二本目を抜く。そのまま俺は走り始めた。止まった瞬間に弾丸の雨が来るはずだ。よけ続けながら、なんとか隙を作らないとっ――。
「ちょこまかと逃げるんじゃないわよ!」
「俺だって鬼ごっこしたいわけじゃ、ねえよっ!」
俺は残りの剣を二本ほど如月に向かって投げた。牽制にでもなれば大いにけっこうだ。氷の盾で防ぐ間に間合いを詰めるっ! そう思ったのだが、
「ちっ……」
バックステップで俺の攻撃をかわした。そして移動した先で一呼吸置いてから氷弾を構えた手から打ち続けてくる。……ん、なぜ今避けたんだ? 盾で受けても良かったはずだ。
俺は如月の行動の違和感に少し考えを巡らせた。
「まだ動くのっ!」
「動かなきゃ死ぬだろこれっ!?」
今度はさっきの倍くらいはある岩みたいな氷を俺の頭上に落としてくる。潰されたら終わりだ。如月もこんだけ異能を酷使しているのに、全然疲れが見えない。相当消費しているはずだから、限界も近いと思うのだが……。やっぱ六魔となると能力の残量も桁違いなのか?
あぁ、ダメだ。動きながらだと思考が鈍る。くそ、一か八かだ。
俺は足を止めて、その場で刀を構えた。
「ようやく諦めたのかしら?」
「んなわけねーだろ。お前にも俺の異能を見せてやるよ」
「そりゃどうも。させないけどねっ――」
かなり能力を振り絞ったのか、かなり気配の濃い氷弾が飛んでくる。やれるかわからないが、こっからは攻めないと勝てないッ!
「一の太刀『
上段から二つにぶった切る。うん、いい刀だ。切りたいようにきれいに切れた。
もう一つ飛んできた氷弾も思いっきり振るう。
「二の太刀『
「な、な……」
まさか斬られるとは思ってなかったのだろう。思いっきり動揺を見せた如月に対して、俺は異能『具現化』を発動させた。来いッ!!
さっき如月の背後に投げていた剣を引き寄せるように手を開いた。その動きから察したのか、即座に振り返ったものの、如月は自分に向かってくる刀を受け止めきれなかった。
腕と足に切り傷を負う。さすがに致命傷にはならなかったが、傷口から血がにじみ出てぽたぽたと垂れた。
「いっ、……な、なんで、剣が。はあ……?」
「具現化したものは全て俺の意志で動かせる。言ってなかったか?」
状況をうまく理解できていない如月が戸惑いながら指さしたのは、俺の周りで浮いている刀だった。指先をくいっと動かすと如月の方に刃先が向く。そう、まさに『具現化』の能力がこれだ。生成した武器を自在に操れる。それは触れなくても、水中でも空中でも変わることはない。生み出した無機物は全てが俺の意のままとなるのだ。
使い方次第では最強に化ける異能。
能力者によっては一人で何人ものを相手に闘える可能性があるだろう。……まあ、今の俺には絶対無理そうだけど。
「はああああ―――? そ、そんなのチートじゃないっ! ズルよズル!」
そんなことを言われても。さっきまでガンガン攻めていたくせに、理不尽なのは文句言うのかよ。
「んじゃ、今度は俺から行くぜ」
三の太刀、四の太刀に加えて五本目、六本目を如月へ向けて刺突させる。同時に動かすのはかなり疲れるが、さっきよりも如月の動きを制限することができている。現に氷の盾を全方位に展開させて攻撃を防ぐので精いっぱいなようだ。
だが、今ならッ!
一気に距離を詰めた俺は間合いに入ると、蹴りで盾ごと如月を吹っ飛ばした。
「ぐっ……!?」
ずさぁっと派手に飛び、氷の防御は水蒸気となって消えた。やはり思った通りだ。俺はさっきの違和感の正体になんとなく察しがついた。
刃先を横たわったままの如月へ向ける。
「お前の異能はもしかして同時展開できないんじゃないのか?」
「……げほげほ、だったら何だって言うのよ」
「なんだ、あっさり認めるのか。さっき俺を攻撃している間は剣を盾で防がずに避けたのはそういうことなんだろ」
「…………よく見てるのね」
「目の肥えない奴は戦闘でも成長できないっていうからな」
「ちょっときもい」
「なんでだよ!?」
如月はゆっくりと立ち上がって再び構えた。氷剣を出さないところを見ると、このまま距離を取って氷弾を打ってくる戦法が吉と見たのだろう。だが、それは近接では俺に勝てないと自ら証明したに過ぎない。
いや、しかし……。
俺もかなり疲れてきている。激しい動きに加えて五本以上の剣に意識を集中しているのだからな。『具現化』は自在に操れるが、操作するごとに体力を持っていかれる。このまま持久戦に入れば、間違いなく俺が不利になる。
どんな異能にだってデメリットがある。強力な異能には代償だって存在する。余裕ぶって刀を構えていても、俺の心には少しずつ焦りがにじみ出てきていた。
「そろそろ決着をつけようぜ。お前も限界が近いんじゃないか?」
「ふんっ、バカにしないで。まだまだ余裕よ。アンタこそ無理しない方がいいわよ」
さすがにバレているか。ちょっとずつ剣の精度が鈍り始めているのは実感していたところだ。早く勝たないとッ!!
「お前の異能はもう見切ったぞ!」
「……バレたから何ってのよ。それくらい予想して動かなきゃ、六魔にはなれないわよ!」
俺が如月に向かって走りだした瞬間、如月が両手で生み出していたエネルギーを地面に叩きつけたことで、一気に収束して暴発する。いや、暴発させたのかっ!?
「吹き飛ばせ『氷壁爆矢』!!」
地面から急速に氷壁が成長し俺と如月の頭上まで囲むように伸びた。そして、全体にひびが入る。これは――マズいだろッ!!
瓦解した氷壁はそれぞれが尖った氷弾へと変化して辺り一帯に降り注ぐ。完全に自爆テロじゃないか。一旦出しきった能力は併用可能なのか、如月は自分に盾を展開させていた。俺もなんとか剣で受けているが、これはあまりにも数が多すぎるッ!
「ぐっ、……くそ、うっ」
肩や腕のみならず全身にぶつかってくる氷。たかが氷、されど質量を持った氷はもはや鉄に匹敵する。くそ、いつまで続くんだ。一分一秒がやけに長く感じるこの空間の中で俺は必死に耐えることしかできなかった。もはや疲れ切ったこの体で下手に動くこともできない。
少し気を抜いてしまったところで、とうとう構えが崩れて一撃を喰らった。もろに頭に入ったせいで膝から地面につく。やばい、このままだと――。
「もらったわっ、『氷鎖巻蛇』!」
俺がスタンするところを狙っていた如月が案の定攻撃を放つ。小さな氷の粒が組み合わさり、字のごとく長い鎖が蛇のように俺に飛んできた。そのまま思いっきり俺の腹部にかみつく。
ぐっ……これはやばい。こみあげてきたショックでそのまま吐血した。
「げほっげほっ……」
これはマズい――。氷剣が構成された音が聞こえる。確実に仕留めに来てるのに、今まったく動くことができない。ダメだ、このままだと……!!
「これで、正真正銘終わりよ!」
「…………ぁ」
次の瞬間、場内に断末魔が響き渡った。
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