第3話 お姉ちゃんはいつだってわがまま

「それじゃあさぁ、俺と友達になってくれよ。あ、あとお前の名前は何て言うんだ?」


 ……なんだコイツ。会話の仕方を知らないのか。普通名前を聞くのは一番最初だろ。というか、俺の拘束とやらに来たわりには調査してないのかよ。

 まじめに返すのがバカバカしくなるくらいに、大輝は満面の笑みを浮かべていた。俺の毒気がすっかり抜かれ、嘆息交じりに俺たちはようやく名を交わした。


「はいはい、俺は黒崎翔太くろさきしょうただよ。そんでお前は?」

「おう翔太だな。そんじゃ、翔太は今日から『戦闘科』に転科しろよ。一緒に遊ぶとき、同じ科の方が楽だしな!」

「いや、だからお前の名前は……」

「能力の事なら心配すんなって。『戦闘科』の全員が俺みたいな強い異能を持っているわけじゃないし、なんなら補助系や回復系統のやつらだっている」

「全員がてめえみたいな化け物でたまるかっ! あと、それでも計算は明らかに戦闘要素が皆無だからな!?」


 会話が成り立たない大輝によく俺は付き合えたと思う。


「非戦闘用なのは知ってるって。だけど学園側に申請すれば、異能を取り替えてくれる異能者がいるらしくてな。そこで、なんやかんやで異能が変わるらしいぞ! つまり翔太も『戦闘科』で闘えるかもって事だよ」

「なんだそれ、初耳だぞ」


 ていうか、なんやかんやとか、らしいとか、かもって曖昧過ぎるだろ……。もっとちゃんとした情報をくれよ。正直今の説明でほいほいついていくバカがいるわけないだろ。逆に不安しかねえぞ。

 いや、しかしあんな役に立たない『速算フィール』よりも、役に立ちそうな戦闘用の異能の方が良いのか? もしうまいこと使えるようになれば、と考えざる負えない。今の俺はまともに武術を使えないただの計算男だ。このままなら確実に学園の経理雑務に振り回される未来しか見えない。

 だけど『戦闘科』で誰かと戦うのも面倒くさいしな……。そんな逡巡する本人を差し置いて、


「んじゃ、俺が申請してくるよ。任せとけ未来の『六魔』の権利でいい異能を回してもらえるようにしてやっからさ」

「オイ、待てよ! 俺はまだなにも……」


 その後大輝はやっぱり勝手に申請したらしく、なんかの身体検査を受けたり、謎の薬を飲まされたりしたんだが……。えっ、なに? ちっちゃくなるの? 『見た目は子供、頭脳は大人!』ってやるの? 別に俺、全然頭良くないんだけど。

 そうして俺の意志とはあまり関係なく、全く俺の知らないところで新たな『異能』を手にした。



                  **




「――つまり俺は悪くないってことよ。わかる?」

「あーはいはい、そうだな」


 隣から聞こえる鼻歌に俺は無性にイラっとした。今思うと俺はよくこの男と友達をやってるよな。あれから振り回されて、嫌な偶然にも寮の部屋が隣同士だという神様にも見捨てられたことを思い出した。

 ホントびっくりだわ。

 そもそも友達とはナンゾヤ? 後でグー●ル先生に聞こう。


「なぁ、翔太」


 急に呼びかけられたかと思うと、俺より少し早く歩き始める大輝。


「なんだよ」


 未だ回想に浸っていた俺は天を仰いだまま無意識にそう返した。


「あーー……、言いにくいんだけどな」


 そう続けて走り始めた大輝。


「んじゃ、言わなくていいよ。お構いなく」


 というか、そのまま黙ってて欲しい。


「あと五分で遅刻になるぞ。大丈夫か?」


 もう遙か先を走り、大声で叫ぶ大輝。


「…………それは早く言えよぉぉぉ!!」


 俺は学園までの残りの距離を全速でダッシュするはめになるのだった。

 全力疾走を終えて肩で息をする俺たちを校門で待ち構えていたのは、例の人……というか、生徒会の副会長だった。名前は水無和葉みずなしかずは

 今日もかわいい笑顔を浮かべていた。

 生徒会特有の真面目さを感じさせない、緩やかにウェーブのかかった髪。切り詰めた短いスカートをカスタムするなどちょっとした遊び心が加わっている。それから、服の上からでも分かるほど主張の激しい膨らみ。すぐれた容姿は学園でもかなりの人気を誇る。

 ……ただ彼女の手にしているを除いて。ほんと台無しですよ、和葉さん。


「今日はぁ、どぉーして遅れたのかなぁー?」


 抑揚を大きくつけた言い方に完璧なまでの笑顔が恐ろしいが、これが彼女の常套句なのである。遅刻してきた俺らへの当てつけのように、足をトントンと動かして苛立ちを見せていた。


「オハッス、副会長。今日の朝は忙しかったンスよ」


 と躊躇なしに嘘でごまかす大輝に対して、


「おはよう。早く六魔の仕事してきなさいよぉ~」


 と笑顔で返す和葉。どうやら仕事を区分しているわりには「六魔」と「生徒会」はちゃんとつながりがあるらしい。そんなことを思いながら何食わぬ顔で大輝の後について行こうとしたら、目の前に日本刀が振り下ろされた。なにすんだよ、飛んでいった髪の毛が見えたじゃねぇか。


「ッッ……危なっ!! 危ないですよ、副会長さん!」

「なんで素通りするのよ、翔くん。それにその呼び方やめて」


 不満そうな顔で和葉さんが俺の目の前から刀を引いた。キンッと甲高い音と共に刀身が鞘に収まる。日本刀が似合う高校生なんて身近で知っているのはこの人だけだろうな。

 六魔でもなく生徒会にも入っていない俺がなぜ彼女と親しいのかと言うと、単純に従兄弟同士だからである。俺にとっては一つ年上のお姉さんになる。幼い頃から何度も会ったことがあり、俺が武術を習ってきた傍らで彼女は剣術を極めてきた。

 黒崎家が武術。水無家が剣術。

 もっとわかりやすく言えば、ライバル家同士を想像するといい。異能を発現した彼女もまたこの学園に入学していたというわけだが、 


「どうせまた寝坊なんでしょ? 夜遅くまでゲームなんてしてるから……」

「してないって! 資料の作成とか課題とかあるから!」

「それは『情報科』にいた時から聞きましたぁ~。細切れにされたいの?」

「ちょっと待ってくれ! それはシャレになんないから!」


 そんな彼女の異能は『斬撃スラッシュ』。目に見える空間ならばどこにでも自在に無数の刃を繰り出せるというかなり上位の異能。剣術化の彼女の特性に非常にマッチしていることもあり、異能者としては破格だ。

 ただ残念なことに生徒会に所属しているために序列は所有していない。公的機関の生徒は皆平等にするため、なんだとか。


「じゃあ~遅刻の罰として、放課後に生徒会の仕事手伝いなさいよぉ。結構溜まってるわりに人手不足なんだからさ」

「なんで俺が手伝わなきゃ――」

「ふぅん、そーゆーこと言うんだ?」


 ……唯一の欠点とも言えるのがドSなんだよなぁ。視線を落としてそのまま無言になる和葉さん。にやりとした暗黒微笑に俺は緊張が走った。


「か、かずはさん?」

「…………」

「…………あの」

「…………」


 あ、これはアレだわ。子供の時からのやつだわ。何かあるたびに俺が呼びかけても和葉さんが反応しなくなるのは既に嫌と言うほど経験してきた。……呼び方が気にくわないんですね。はいはい。

 無言だけならず、明後日の方向に視線を向けだした和葉さんに仕方なく俺は発した。


「あー、ごほん……和ねぇ?」

「なぁに、翔くん?」


 とびきりの笑顔付きである。

 見慣れたいつも通りの笑顔を見せるが、今のは心の底からの笑顔なんだろうな。

 正直このくだりは心底恥ずかしいのだが、後々放置しておくと余計にめんどくさくなるので我慢して呼んだ方がいいと俺は学習している。大輝がこの場にいないのが救いだ。


「んで、なんで俺が雑用しなくちゃいけないんだよ」

「今回でぇ、通算157回目の遅刻でぇす。その翔くんの罪をもみ消しているのは、誰でしょーうかぁ?」

「………」

「別にぃ報告書にまとめて載せてもいいのよ? まあおそらく学内の美化清掃だけじゃ終わんないよねぇ」


 俺はすかさず必殺技を繰り出した。秘儀『土下座』!!

 ハハッ、ぷらいど? ナニソレおいしいの?

 そんなことより遅刻の回数を数えているあたりが恐ろしいよね。157回目だってよ、逆に凄くね俺。惚れてもいいのよ?


「て、手伝うよ。いや、手伝わせてください」

「よろしい。それじゃあ放課後に待ってるわぁ。逃げたらぁどうなるか分かってるわよねぇ」


 ニッコリ笑ったまま再び日本刀を手をかけ始めたので、俺はすぐにその場から逃げ出した。完全にパワハラだけど、もう逃げるしかないじゃん。

 だが最後に和葉がぼそりと言った、


「放課後の密室で、翔くんと二人きりだなんて……! 素晴らしいわぁ~」


 という独り言は聞かなかったことにしたい。というか、他の役員もいる……よね? 

 だ、だから、二人きりじゃないよなッ⁉ たぶん。きっと。

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