赤い糸

夏伊side

6.赤い糸の繋がり

 中学を卒業しても、三月三十一日までは中学生。でも、四月になれば、もう高校生になってしまう。

 中学生から高校生に変わってしまう。

 高校生になってしまったら、愛美には簡単には会えなくなる。

 そして、その付近は、ホワイトデーに近い。だから、愛美にお返しの品を渡すにしても、早めに準備をしなければいけない。夏伊は愛美の家を知らないから。それに、愛美の家がどこに在るのか聞く勇気がない。そして、まだ、自分の気持ちを誤解されたくない。

 愛美の事は“可愛い”とは思うが“好き”ではない。だから、ホワイトデーのお返しに考えているのも“クッキー”だ。そのクッキーは市販されているものではなく、夏伊自身で作ることに決めてある。でも、それを愛美に渡す勇気がない。愛美に渡すことを考えると父親──斗神龍緒とがみたつおに言われた言葉を思い出すからだ。


“赤い糸が結ばれた状態で、その相手に自分で作ったものを渡すと、赤い糸の繋がりが強固になり、自分の気持ちが相手に伝わる”


 それを思うと、二の足を踏む自分がいる。だからといって、市販品を渡すのはイヤだ。考えていても仕方がない。夏伊は自宅のキッチンで愛美に渡すクッキーを作るために、クローゼットの中にある腰巻きのエプロンを手に取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る