2.糸の変化
それから数年が経ち、中学生になっていた。中学生になっても、相変わらず、夏伊とは仲間で、友達。いや、友達より、より仲が良い、親友になっていた。だから、中指にある糸はオレンジ色である程度太くなっていた。
そんなある時、佳宮は不思議な光景を目にすることが増えていた。それは男女間に結ばれている黄色やオレンジの糸が何故だか赤く見える事だ。そんなことは今までになく、佳宮は疑問に思っていた。それが起こる時期は大体が12月から3月にかけて。そして、中指の糸が小指にまで絡まっている。そんなことは今まで見たことがなかった。そして、同じ時期になると、どうしてか夏伊の機嫌まで悪くなっている。その理由を知らない佳宮としては、機嫌の悪い夏伊にあまり関わりたくなかった。
そんなある日、夏伊と一緒に勉強をするために夏伊の家に行ったときに、夏伊が機嫌が悪い理由を教えてくれた。
「糸が絡まってくるのがウザくて機嫌が悪いだけだから」
それを聞いた佳宮は首をかしげた。
「糸が絡まってくる……」
そこまで、聞いて佳宮は夏伊の機嫌の悪さを理解した。
確かに、男の佳宮から見ても夏伊は格好いいと思う。だから、恋に興味がある女子達は、夏伊に興味がある。そして、淡い恋心を抱いているのも、教室の雰囲気でわかる。
「夏伊も大変なんだな……」
「それに引き換え、ミヤは良いよな、そんなことないだろう」
その言葉を聞き、佳宮はあることに気がついた。そして、ある一つの答えが自分の中で導かれた。
「そういうことか!」
いきなり発した声に、夏伊の眉間にシワがよった。それを見て、気がついたことを素直に夏伊に伝えていた。
「だから、多分だけど、おれには夏伊が見えているものは見えないけど、夏伊には見えてるんだろう?」
「そうだったな、確かにアイツらの小指にあった気がする」
それを知ってからというもの、佳宮は糸が変化するのを見る度に嬉しくなっていた。
“夏伊と同じものを見られる”
それが嬉しい佳宮は、この時期は夏伊と反対で、機嫌が良くなる事が多くなっていた。
◇◆◇◆◇
そんな日々を過ごすのが初めての佳宮は、毎日が楽しい。だけど、そんな佳宮と正反対に機嫌が悪い夏伊を見るのもなれてきた頃、佳宮は初めて、恋心が自分の中に生まれたことを自覚した。それは自身の中指にある糸がそれをよく表していた。その糸は佳宮に近いほど赤みがかったオレンジ色になり、小指に絡まっている。そして、その糸は
それが嬉しくて、佳宮は夏伊にこんなことを言ったことがある。
「なぁ、神板さんとおれ、小指……」
「……、今はわからない。外してるから」
夏伊の口から発せられた「外している」という言葉。それを聞いて、佳宮は驚き、夏伊を見て、固まっていた。
「他人のもオレには見える……。でも、何かと決まり、事があるらしくて、詳しいことは知らないんだ。でも、誰にでも、それはあるから安心しろ」
それを聞いて、素直に佳宮は頷いていた。もし、それが中指の糸と同じように、消えてしまうなら、そうなってしまうのは絶対にイヤだ。それは幼稚園、小学校で嫌という程、経験していたから。
「そっか……」
「誰だって知りたい。特にココは……」
左の小指を立てて、それを佳宮に見せる夏伊。
それから少しの沈黙の後、佳宮は「なぁ、外せるってどういう事?」と勇気を出して夏伊に聞いていた。
「親父に言われたんだ。それは外せるが、バレンタイン付近だけはしてろって」
再び、外せるという言葉を聞き、瞬時に羨ましいと思った。佳宮が見える黄色、オレンジ色の糸は外せないから。だから、佳宮は「そうか」としか言えなかった。
それからというもの、バレンタインデーの一ヶ月も前から佳宮は愛美にどんな逆チョコを渡そうかと考え始めていた。
だけど、それをするのはやめることにした。バレンタインデーが近付いてきて、発せられた夏伊の一言で。
“神板さんと繋がった”
夏伊が言った言葉を聞き、佳宮はその瞬間に、失恋した。だからといって、おれの中指から伸び小指に絡まっている赤みがかったオレンジ色の糸が簡単に消える訳じゃない。オレにとっては失恋だが、夏伊にとっては初恋だ。それは応援したい。だから、佳宮は、出来るだけ夏伊のサポートをしようと決めた。
この時初めて、佳宮は、自分に黄色・オレンジ色の糸が見えて良かったと思えた。あんなにも幼い頃は、見えることを毛嫌いしていたのに。
そして、夏伊と愛美がうまくいくようにと、サポートしたのにも関わらず、夏伊は、愛美がせっかく夏伊に渡そうと決めた“本命チョコケーキ”を“友チョコケーキ”として、受け取ってしまった。
(何やってるんだよ!)
でも、目の前で嬉しそうに、“友チョコケーキ”を食べている夏伊を見ていると佳宮はなんだか嬉しい気持ちになっていた。その気持ちは、初めて、佳宮と夏伊の黄色の糸がオレンジ色に変わったときの気持ちに似ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます