3.手作りチョコケーキ

 愛美の目の前には失敗したチョコケーキで一杯だ。その山を見て、またため息が出た。


(こんなんじゃあ、渡せない……)


 夏伊には上手く出来たのを渡したい。だから、こうして練習している。だけど、なかなか上手くいかない。それに加えて、美子乃は料理上手だ。レシピを見ながら作ってる所を見たことがない。それが不思議で、美子乃にレシピを見ない理由を聞いたらこんな答えが返ってきた。


“だって、自然と浮かぶから……”


 その答えを聞いたとき、愛美の頭は思考停止した。だから、今作っているチョコケーキも、一応、美子乃に一度聞いて、作っているところを見ながらメモしていたけど、美子乃みたいに上手くできない。


「はぁー……」

「どうしたんだい、そんなに大きなため息をついて」


 百合が、微笑みながら愛美に近づいてくる。そして、キッチン回りを見て、状況を理解した百合が一言こう言った。


「大丈夫だよ、愛美の中にのを信じたらいいんだよ」


 その言葉に、やっぱり思考が停止する。

 百合も美子乃も、意味がわからないことをよく言う。意味がわからなくて、首をかしげると、百合が愛美の頭を撫でてくれた。


「大丈夫、愛美の中にのを信じたらいいんだ。現に、愛美の中に“愛”が出ているから、チョコケーキを作って渡そうとしているんだろう?」

「愛……。それって、好きって気持ち、だよ、ね……?」


 その問いかけに百合は頷くだけ。そして、チョコケーキを一緒に作ろうと言ってくれた。そして、百合と同じ様に作って、どうにか形になった。オーブンの中で、キチンと膨らみ、美味しそうに見える。


「ちゃんと膨らんだ! 出来てる! おばあちゃん、ありがとう」

「良いんだよ」


 そう言って、百合は愛美が作って失敗したチョコケーキを食べた。


「美味しいじゃないか」

「だって、見た目が悪すぎるんだもん……」

「見た目ばかりにとらわれちゃあ、いけないよ」


 そう言って、数個、失敗したチョコケーキを食べてくれた。


「そんなこと言ったって……見えてるんだから、気にするよ……」

「それにばっかり気をとられてると、痛い目見るよ」


 言葉は怖いのに、百合の声色は怖くない。むしろ、楽しんでいるかのように感じた。だから、愛美は素直に感じたことを口にしていた。


「ねぇ、おばあちゃん。楽しんでるでしょう、この状況」


 ニッコリと微笑む。いつもより、長く見つめられて、気まずくなり、百合から視線を外す。

 答えてくれないのはいつもの事。だから、さほど気にしない。だけど、なんだか気分が悪くて、口を少しだけ、尖らせた。


「怒らないでおくれ、孫の成長を、を感じられて楽しいんだよ」


 そう言って、百合は、愛美を抱き締めてくれた。その抱擁は、スッゴク優しくて、いつまでもされていたいと感じていた愛美だった。

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