第一章 天使の正体①
ロゼッタが目を覚ますと、そこは見慣れた
どうしてここにいるのだろうか。確か屋敷のバラ園にいたはずなのに。
ロゼッタは必死に
「私、生きてる?」
「あれは夢だったのかしら」
バラ園でバラの手入れをしていたら、見知らぬ暴漢が現れて首を
「天使か。そうよね、私なんかのために天使様が現れるわけがないわ」
あれは夢だったのだと結論付けたときだった。
再びノックの音がして今度はそのまま
「
人影がロゼッタの横に
「あの、お
心配そうに天使が
「い、いえ、その、大丈夫です」
混乱しながらも何とか返事をする。天使が目の前にいるということは、さっきのは夢ではなくて現実だったということか。
「それは良かったです。ところで、外で
「あの、あなたは?」
おずおずとロゼッタは問いかける。すると天使じゃないかもしれない彼は、
「申し
透けるような白い
「もしかして、私を助けてくれたのでしょうか?」
「えぇ。
レオが
「あの、ありがとうございました。私はロゼッタ・フェリオ・レンティーニと申します」
ロゼッタは背筋を
「あの、貴族様が俺相手にかしこまらないでください」
レオが目を丸くして首を
「いえ、そういうわけには……あぁ、ごめんなさい。命の恩人にお茶すらお出ししていないなんて。すぐに用意してきますので、少々お待ちください」
今までは使用人がやってくれていたから、気付くのが遅れてしまった。そのことに思い至りロゼッタの心が
「あなたが用意を?」
レオが不思議そうに
「はい。お
「えっ、本当に誰も?」
驚きのせいか、レオの瞳の
「ええ。別に外出しているからいないというわけではなく、本当に誰も残っていないのです」
屋敷にいた使用人達は、誰一人としてロゼッタを気にかけることなく去っていった。その事実を告げるのも恥ずかしいが、いないものはいないのだから仕方ない。
「だったら、俺を
「あなたを?」
レオの勢いに押されつつ、ロゼッタは困ったなと眉を下げる。だって自分は
「あまり言いたくはありませんが、私では仕え
「俺、レンティーニ
ロゼッタはなるほどと
「ごめんなさい。もうアントニオ様は一か月前にお
アントニオ以外、ロゼッタを後妻だと認める人はいないけれど。
訳あって
「侯爵様が亡くなったことは知っています。とても残念ですが、あなたは侯爵様が最後にとても大切にされていた方だとお聞きしました。だから代わりにあなたに仕えることは、侯爵様への恩返しになると思います」
レオがこいねがうような瞳でロゼッタを見上げてきた。深い海の色の瞳が、不安そうに揺れている。思わず
「俺、
「奥様……?」
初めてそんな風に呼ばれた。
「奥様、はお
レオはぐいぐいと話を進めようとしてくる。
「ええと、今までの使用人達からは、お
素直に答えると、レオは不思議そうに首を
「奥様なのにお嬢様、とは変わった呼び方ですね」
「えぇ、まぁ。私は皆さんにあまり受け入れられていなかったので」
使用人達は、
「分かりました。では、侯爵様が亡くなられているのにあえて奥様とお呼びするのも気が引けますので、ロゼッタ様と呼ばせていただきますね!」
レオは、すでに仕えることが決まったような口ぶりだ。
「待って。この屋敷にいても良いことはないです。だって私一人しかいないんですよ?」
ロゼッタは
「ロゼッタ様がいらっしゃればそれでいいんです。俺の目的は達成できますから」
「恩返しがしたいのなら、十分返してもらっています。さっき命を助けてもらったのだから」
行き先もなく
「ロゼッタ様がそう来るなら俺も言わせていただきますけど。助けられた恩を返すと思って、俺を雇ってください。俺、仕送りのためにも働きたいんですよ。だからお願いします」
恩返しのために雇って欲しくて、恩返しのために雇う? なんだか恩返しが一周回ってよく分からなくなってきた。
「ほら、これで公平になるでしょ、ロゼッタ様」
確かに、仕送りをしたいのならば働き口がないと困るだろう。あるいはロゼッタが
「でも私に仕えたら、あなたに
混乱のあまり、じわりと
「ロゼッタ様が『はい』と言ってくださらないと、俺は一生、恩を返せなかったと
すらすらと説得の言葉を積み重ねてくる。ロゼッタは反論の言葉も
「そ、そうかも、しれないです」
勢いに
「よしっ。じゃあ決まりですね」
レオは
まるで気まぐれな猫に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます