第二章⑥
数日後、ミリアは廊下でエドワードに呼び止められた。後ろにはやっぱりアルフォンスとジョセフを連れている。
「ミリア嬢!」
「何でしょうか」
エドワードはなんだか焦ったような
「先日あった図書館の本棚が倒れた事件、ミリア嬢が
あの後事故があったことは
エドワード様にだけは知られたくなかったのに……絶対面倒なことになるから。
アルフォンスに視線を向けると、かすかに首が横に振られた。口を
学園は王立だもんね。王族に隠し事ができるわけないか。
「なんともありませんでしたので」
「アルがいなければ怪我で済まなかったかもしれないのだぞ!?」
「でも、なんともありませんでしたので」
ミリアが淡々と告げると、エドワードがはっと目を見開いた。
「もしや誰かがミリア嬢を──」
「殿下」
よからぬことを言い出しそうになったエドワードを、アルフォンスが止める。
ミリアはひやりとした。
誰かが
事故だったのは確かだ。ミリアも踏み台の状態を確認した。
「あれは踏み板が腐っていたのが原因です。事故で間違いありません」
「だが……」
エドワードが
ミリアに対する悪評のことを気にしているのだろう。
今エドワードが思い浮かべている人物は、恐らくローズだ。
まずい。
「私のせいなんです。届くかなと思って低い方の踏み台を使ったから。ちゃんと高い踏み台を使っていればこんなことにはならなかったのに……貴重な本を台無しにしてしまってごめんなさい」
ミリアは頭を下げた。
「いや、ミリア嬢のせいではない」
「そうだよ、事故だったんだから、ミリアが気にすることない」
エドワードに続いてジョセフも
ジョセフがミリアの肩に手を置こうとしたのを、エドワードが叩き
翌朝、ミリアの部屋に
届けに来た使用人たちはミリアの横をすり抜けて部屋に入り、テーブルの上に
備えつけの調度品のみのシンプルでしかなかった部屋に、ぱっと赤い色が
エドワードから直接花を渡されたことは今までにもあったが、それはせいぜいキッチンブーケほどの小さなもので、ここまで
どれも完全に花開いていて、つぼみや開いたばかりの花を
この時期にこれだけ見事に咲き誇っているのだから、王宮の温室で育てられたものだろう。市場で買えばかなりの値がつく。
ミリアの見立てが正しければ、花瓶も
「一体なんなの……」
困惑したミリアだったが、いつまでも部屋にいると
とりあえず校舎に行こう、と建物から出ようとしたところで、外が騒がしいことに気がついた。開いた
まさか──。
ぶんぶん、と頭を振ってよぎった悪い予感を追い出す。考えるとフラグが立つ。
だがミリアの悪い予感はやっぱり当たってしまう。
人の輪の中心にいたのはエドワードだった。令嬢たちとにこやかに話している。
「ミリア嬢!」
「おはようございます、殿下。今日は早いですね」
ミリアが作り笑顔で挨拶をすると、令嬢たちにぎろりとにらまれた。
顔ぶれは毎朝エドワードを囲んで校舎に来る令嬢たちだった。いつも学園の正門でエドワードの入り待ちをしているらしい。
「ミリア嬢を待っていたのだ」
「何の用ですか」
多少冷たい反応になってしまうのは致し方ない。寮の前で待たれるなど
「また図書館での事故のようなことがあっては大変だ。校舎まで
登校中に事故なんて起きるわけないじゃない。
しかし、断ったところで行き先は同じだ。
かくしてミリアは、王太子様と共にご令嬢方に囲まれて歩くことになった。
エドワードは
そんなミリアに
「
「……はい。ありがとうございました」
お礼は後でこっそりと言うつもりだった。こんな大勢の前ではなくて。
「香りのいい薔薇だっただろう?」
言われてミリアはめまいを感じた。
ここでそこまで言う!?
エドワードは婚約者のことをど忘れしたらしい。頭の検査に行くべきだ。そのまま入院すればいいのに。
「……そうですね。紅い色が綺麗でした」
ミリアにはそう言うしかない。
エドワードは満足そうにうなずいた。
ご令嬢様方が発する黒くどろどろとした
幼い
ミリアはどんよりとした空を見上げた。
まだまだ校舎は遠い。
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